
「し、信じらんねぇ。」 けっきょくは居座らせることになってしまった女子高生、高瀬。可愛い顔には似合わずの確信犯に加えてなかなか融通のきかない性格をしているようだ。(ちゃん付けすんのもなんか馬鹿馬鹿しくなってきたから呼び捨てに改めた)が肩にかけていたカバンには、最低限の必需品が入っていたらしい。つまりは、本当に最初から居座るつもりだったのだ(そういえば、持ってるカバンがやけに大きいとは思っていたが)俺の住んでるアパートは実は、リビングの他に二部屋あったりする。それほど広くはないのだが、家賃の割に贅沢はできる。それというのも、ここの大家が友達の親だったりするからなんだけど。 「着替え多めに持ってきてないんだよね。」 「そのカバンにそんだけの荷物が入るわけねーだろ。」 「うーん、でも洗顔とかその辺りは欲しいなぁ。」 家出娘(いいのか俺、家出に加担しちまって)はなにやら考えているようだ。俺は、もーどーにでもしてくれ。と、そういう感じで、ヤケになっている。一人暮らしを始めてから彼女とかつくっていない俺は家に女物のイロハを置いているわけがなくて、にとっては住みにくいと思うんだけど(でも、それを言っても首を縦には振らなかった)とりあえず、腹がへったから弁当を食べたいんだけど、と俺が言おうとしていたとき、はポンと手を打った。 「では、買い物に行ってきます!」 「はぁぁ?」 ただいまの時刻は夜の9時。当たり前だが、もう外は真っ暗だ。こんな時間に一人で買い物に行こうとするのが信じられねぇ。店は閉まってるだろ、と言ってみたものの、はどうやらコンビニで買い物をすませるつもりらしい。ここからコンビニは歩いて十五分弱くらいのところにあるものの、夜にオンナノコの一人歩きはぜったいに危ない(、制服のままだしな…変なオヤジとかに目をつけられそうだ)本当に援交の誘いとかがあるかもしれない。俺は明日にしろと説得してみたものの、やっぱりが首を縦に振るわけがないのだった。 「準太ってば心配性だなぁ。」 「俺は普通です、が異常なんです。」 けっきょくは俺が一緒にコンビニまで行くことになった(女子高生に振り回される俺ってドウヨ)歩きながら、俺はに家出の事情をさり気なく聞いてみたところ、父親との意見がまったく合わずに家出に至ったらしい。心配してるんじゃないか、とも言ってみたけど、はアハハと笑うだけでそれ以上何も言おうとはしなかった。それから顔を俯けて、沈黙。少しの沈黙がなぜか重たく感じたので俺は話を変えることにした。話題は、そう、が通ってる桐青高校のことだ。三年前までは俺も通っていた桐青高校。野球部のことは、出てたら新聞とかテレビで見てるし、顔もたまには出すので知っている。他のこと、たとえばヒステリックな先生とか変なノリの先生とか校長の話はまだ長いか、とか聞いてみた。他愛もない話での表情はすっかり戻っていたので、俺は安心した。 「いらっしゃいませー!」 そうこうしている間に目的地であるコンビニに着いた(俺が夕飯と朝飯を買ったコンビニだ)はシャンプーやら洗顔やらを見ている。最近のコンビニには何でもあるっていうのは本当のようだ。ちょっと時間がかかりそうなので、俺は雑誌の立ち読みをすることにした。パラパラとめくって中身を見るものの、が見せた表情がなぜか脳裏に残っている。最近の女子高生の悩みとかっていうのは、けっこう重たいもんなんだな。俺のときは…やっぱ、二年のときの初戦負けが一番悩ましい出来事だったけど(今でもちょっと凹みそうになるのは、和サンには内緒だ) 「準太、何か買う?」 「え、いや、ないけど。もう買う物決めたのか?」 うん、とは言った。買い物カゴの中にはシャンプーにリンス、歯磨きに洗顔、化粧水らしきもの、夕飯だろうか、グラタン。朝飯用かな、サンドウィッチが入っている。 「シャンプーとかは明日イイの買うから小さいのにした。」 「うちの使えばいいだろ、そこまでケチケチしねーよ。」 「だって準太の合わないかもしれないでしょ。」 「俺ん家にあるのは…これだよ。」 偶然にも同じものが置いてあったので俺は手にとって見せた。はそれを見ると、大丈夫っぽいや、と言ってカゴの中からシャンプーとリンスを出して棚に戻した。がそれをレジに持って行くと店員がやけにニヤついた顔をしたような気がした。あぁそー、女子高生にときめいちゃったわけですね、恐らく三十路前のお方(俺だって人のこと言えないけど、似たようなもんだ)2530円です、と言われては普通に一万円札を出した(おい、最近の女子高生は金持ってんなぁ!危ないぞ!) 「準太、本当に何も買う物ないの、お金出すよ?」 「女子高生に奢られてどうするよ。」 お金はあるわけじゃないけど、ないわけでもない。学校を奨学生で行ってる分学校に関する費用は軽くなるわけで、その分多めに仕送りはもらってる(けっこうチャッカリやってるわけだ俺も)野球があるから多くは入れないが、バイトだってちょっとはやってる。現在の財布の中身は、きっとより少ないだろうけど、年下に奢られるほど困ってるわけでもない。奢られるつもりはないが、そういえば今日学校で聞いた美味いスポーツ飲料ってやつがここにあるのかどうか見に行こうと思った。に声をかけて俺はジュースの棚を見に行く。 「…あったけど、高ぇ。」 スポーツ飲料に最低でも147円以上は出せないぞ。俺は一気に興ざめしてしまい、がいるところに戻る。そのとき目に入ったものは、こともあろうが仕事中であろう男がに紙切れを渡しているところだった(たぶん、電話番号とかメールアドレス)俺は短い息をはくと、無言でその紙切れをの手からスッと抜き取った。店員の男は瞬時に驚いたような表情を浮かべた。慌てて、ありがとうございましたー!と声をあげる。その声を最後まで聞いてやらずに、俺はの手を引っ張って自動ドアをくぐった。 「準太、過保護な兄だと思われたんじゃない?」 「違うだろ、むしろ…。」 |