
「あれ、準サン弁当なんスかぁ?」 明日の練習試合に備えてほとんどの部員が午後の講義は休んで練習に出ることになっている(単位がそうとうヤバイ奴は出られないけど)俺も別に問題はないので練習に参加する。部室で昼飯を食べていると、後から来た利央が不思議そうに俺の顔をのぞきこんだ(うぜー)どういうわけか、アホな利央がここに受かって、俺と一緒にバッテリーを組んでたりする。まぁ、上手くなったのは認めてやろう。だけど、和サンには程遠いな!俺は弁当に手を伸ばす利央の手をピシャリと叩いてやった。 「うっせぇ、俺だって弁当の日があるさ。」 「変なのぉ、準サンいつも購買のパンなのにー。」 マジうっせぇなぁコイツ。俺は利央を無視して弁当を食べることに集中しようと思った。中身は白いご飯にふりかけ、玉子焼きに野菜炒め、シュウマイ(これは冷凍食品だけど)他。言うまでもなく、俺が作るわけもなく、朝起きてビックリしたけど、が作ってくれた弁当だ。朝起きたら料理の本と睨めっこしてたのにマジで面食らった(制服着たまま料理してたことも含めてだけど)料理初心者、と言っていただけど、なかなかいける。なにより、朝早く起きて弁当を作っていたことがすごい。お肉類がなくてごめんね、と謝っていたけど、謝るのは俺の方じゃないだろうか(作らせて悪い、と)今日は帰りに弁当の材料も見てくると言っていた。そういえば、お金の問題だが、から5000円を貰うことでカタをつけた(は、それじゃビジネスホテル一泊分より安い!と言っていたけど)俺としては、高校生から金をとることの方がかなり痛いんだけど。だから、その金は使う気はない。 「その弁当、準サンが作ったの?」 「…あー、そーそー。」 「うそだぁ、あ、分かった、準サン彼女できたんでしょ。」 「バッ…ゲホッ。」 バカの言葉に俺は食べ物を詰まらせてしまった。むせたことで更に利央は調子に乗って俺を怪しむ。本当に彼女なんかじゃないんだけど、他人、しかもオンナノコが家に住んでるなんてことは言えるわけがない。俺はペットボトルのお茶を口に入れて、もったいないけど流し込んだ。 「ちげぇよ、あんまりうっせーと投げてやんねーぞ!」 「え、それ関係ないじゃないスかぁ?」 「うるせーうるせー。」 「ちょ、ちょっと、準サァン!」 それからしつこく泣きついてくる利央を軽く無視して弁当を食べ終えた。量はどのくらいか、と弁当を詰めるときにに聞かれていたので、量は丁度いい。初心者のためか、玉子焼きがうまく巻けていないことにちょっと笑えたけど、味はちゃんとしていた。美味かった、とメールをしておいてやると、すぐに、ありがとう!という返事が返ってきた。昨日のカレーのときもものすごく嬉しそうな顔をしてたな、そういえば。でも、指を四回切ってたことに不安は感じたけど…。そういえば、そういえば、皿を洗うのもなんかぎこちなかった気がする。お米は洗剤で洗わないって家庭科の調理実習で習ったの、と笑って言ってたりしたけど…もし習ってなかったら洗剤で米洗ってたりしたんだろうか? 「(もしかして、って金持ちの娘なんじゃ)」 それこそ、料理も皿洗いも自分でする必要がないような…(だって大金持ってたし)でも、そうであるならば、家出なんて易々許すもんじゃないだろう(普通の家の人だって許したりしないだろうし)はあまり話したくなさそうだったので、追求することはできなかった。"あたしは本気です"そう言ったは真剣だった。俺にだって分かった、こいつにはどうしても家に戻りたくない事情があるんだって。事情があって家にはしばらく戻れないんだって。でも、本当にそれでいいんだろうか。 「準サン、準サン、練習始まりますよぉ。」 「わぁってる!」 ----- 今日の練習も昨日と同じくらいの時間になった。は今日も何かしら楽しんで作っているんだろう。昨日のようにドアはあっさりと開いた(無用心と昨日、実はうるさく言ったつもりではあったんだけど)俺は溜息をついて家へと入った。ただいま、と言ってみるが返事がない。鍵はかかってなかったし、まさか出かけているわけはないよな。物音もしない、声も、テレビの音もしない。そんな状況に俺は内心焦りながら、慌てて靴を脱いだ(まさか強盗とか…)そのまま早足でキッチンの方へと向かった。そして俺は勢いよくドアを開ける。 「あ、準太おかえり!」 はちゃんと家の中にいた(強盗とかじゃなくてよかった)どうやら料理に集中していたらしいは今日買ったらしいエプロン姿で、皿にのせたものを得意気に俺に見せてきた。皿の上に乗っているのは、ベーコンで巻いてあるアスパラだった。その他にも、弁当のよりも上手く巻けてる玉子焼きや彩りの良いポテトサラダなどが作ってあった。俺の心配をよそに、無邪気な(やっぱり頭がよくまわっても高校生は高校生か)に俺はデコピンをくらわせた。意味が分からないは痛みに眉を寄せ、俺を訝<いぶか>しげに見てきた。 「鍵くらいかけろ、返事だってしろ。」 「あ、ごめーん。」 「ごめーん、じゃねーよ!」 「あはは、心配してくれてありがとー。」 俺は少なからず、ちょっとは怒っているというのに、は笑顔を浮かべて感謝の言葉を言った。毒気を失うのも無理のない話だ(狙ってるのか、天然なのか)どうやらこいつは夕飯を作った後に弁当のおかずの練習をしていたらしい。俺の声も聞こえないくらい集中していたのはなんとまあすごいこった。皿のすみっこに置いてあったタコに装ったウィンナーをつまんで食べると、ポカリと背中をたたかれた。 「明日のお弁当のおかず!」 「明日は学校休みだろ?」 明日は土曜日だから学校は休みだ。俺がそう言うと、は、あ、と声をあげて少し恥ずかしそうに頬をかいた(忘れていたらしい)じゃーこれは夕ご飯に食べようか、と言ったので、おぅ、と返そうと思っていたけれど、そういえば俺は明日練習試合だから弁当がいることを思い出した。 「そういや、俺明日弁当いるわ。」 「え、なんで?学校あるの?」 「練習試合あんだった。」 「おー!で、そういえば準太どんなスポーツしてるの?」 「野球。」 「おー!やきゅー!」 このテンションはなんだろう。は嬉々とした声をあげ拍手を俺に送る。そんなことより飯が食いたいんだけど、と言うと明るい返事をして飯の準備に入った。させてばかりは悪いので、俺も手伝う。言われるままに皿を出したり、運んだりした。その間も野球の話題は続いていた。 「準太野球してたんだー。」 「野球好きなのか?」 「うーん別に、でもプロ野球選手と話したことあるよ。」 ○○選手とか、××選手とかー。と、は言った。おい、それってけっこうメジャーな選手じゃねーか?どうやって話したってんだよお前は(やっぱりは謎ばかり)そうこうしている間に夕飯の準備は済んでいた。今日の飯は、和食で、煮物とか味噌汁とかだった。いただきます、と俺たちは食べ始める。うん、美味い。食べてる俺を見て、はにっこりと笑う。そして、何かを思いついたように、体を少し乗り出して俺に言った。 「準太、明日練習試合見に行ってもいい?」 |