
「すみませーん、高瀬準太の居場所分かります?」 一緒に見に来るはずだったは突然おばあちゃんの付き添いで病院に行くことになってしまった(おばあちゃん思いのいい子だよ、!)のであたしは一人で練習試合の会場である桐青大学に来ています。朝少し寝坊して慌てて家を出て行って、朝ご飯は食べたのに、お弁当を忘れて行ってしまった準太にお弁当を渡すという使命ができたので果敢にも見知らぬ場所にて人探し。本当はひっそりと野球見学をするはずだったんだけど。午前中は練習で、午後から練習試合だと準太は言っていたので、ゆっくりとお昼前くらいに来たわけだけど(ちなみに準太が携帯に出てくれないの!) 「準サン?」 野球のユニフォームを着ている、準太より背の高そうな男の人を見つけたので、その人に聞いてみた。どうやら、準太はこの人の中では"準サン"らしい(あたしもそう呼べばよかったかもしれない)色素の薄い髪に、ちょっと瞳の色が違う、ハーフかクウォーターなんだろうか、キレイだ。その男の人はあたしの顔をじぃっと見てきたので、あたしは驚いて目をパチパチさせてしまった。あたしが驚いたのに気づいたのか、その人は、ごめん、と言葉を発した。 「もしかして…準サンの、彼女?」 「彼女違いますよ…親戚です。」 とりあえずは無難なところにしておこう。いくら準太に今彼女がいないとしても、あたしが彼女になってしまったのではいけないだろう。大学にもっと大人で素敵な女性がいるだろうし。名前を聞かれたので、高瀬、と名乗った(こういうとき、偶然にも同じ名字でよかったと思う、名字が同じだけでなんか親戚っぽい気がするような…気がする) 「俺、仲沢利央、準サンの後輩だよぉ。」 りおう、珍しい名前だなぁ。利央サンは懐っこそうな笑顔を浮かべて手を差し出してきたので、あたしも手を出して握手をした。大学生じゃないよね、と言われたので、高校生です、と返した。このままでは準太のお昼ご飯が渡せず終いになってしまいそうなので、さりげなく準太の居場所に話を戻した。すると利央サンは思い出して、慌てたように声をあげた。するとあたしの手を掴み、こっちだよぉ、とそのままあたしを引っ張って歩き始めた(独特なテンポな人だなぁ)準太は水道で顔を洗っていた。 「準太ー!」 顔を洗い終わってタオルで顔を拭いていた準太を呼ぶと、声であたしと分かったんだろう、勢いよくこっちを振り向いた。!とあたしよりも大きな声で呼んでしまったため、部活仲間らしき人たちが一斉にこっちを向いた。さすがのあたしも思わず身を引いてしまいそうになった。 「お前午後から来るんじゃなかったのかよ。」 「その予定だったんだけど、準太、忘れ物。」 あたしはカバンの中からお弁当が入った袋を出した。そこで初めて準太は自分がお弁当を忘れていたことを知ったらしい(そりゃそうか、あれだけ慌てて出て行ったんじゃ気づかないよね)さぁ、準太にお弁当を届けたことだし、あたしもどこかでお昼ご飯食べてこようかなぁと思ってたとき、自分と準太がなぜだか囲まれていることに気がついた。ガタイのいい男の人たちに囲まれてたら誰だってビックリする。あたしは短い驚嘆の声をあげた。そのせいか男の人たちはハッとしたように円を崩していく。 「準サン、いいスねぇ可愛い親戚がいてー。」 「はぁ…あー、そっか?」 一瞬何の事だか分からない、というような顔をしてしまいましたね準太。あたしは密に準太にウィンク(目配せ)をして、そういうことにしたんだと教えた。いーなー準太、このこのっ、と利央サン以外の人からも背中をどつかれている。みんな仲が良さそうだ。あたしはそれを微笑ましいと思いながらも、準太に手を振って帰ろう(どこかお昼ご飯を食べに行こう)と思っていた、んだけど。 「お前、どこ行くんだよ。」 と、準太に言われてしまい。けっきょく、ここであたしもお昼ご飯になってしまった。お昼ご飯がないから食べに行ってくる、と言ったんだけど、なんだか皆さんが、これあげる、とか言って余分に持ってきてたらしいパンをくれた。それに。 「準太の弁当すげー、量多いなー。」 「おばさん張り切りすぎじゃね?」 お弁当は準太のお母さんからの預かり物ってことにしておいた。とっさの割に上手いことが言えたと思う。そう言われて初めて、あたしはお弁当入れすぎたことに気がついた(自分のお弁当がないから全部を入れちゃったんだけどね、実は)お弁当を開けた準太は一瞬苦笑いを浮かべて、コソコソ声であたしに。 「さすがの俺でもこれは食べきれないんですけど。」 「すみませんでした。」 そーゆーわけであたしもお弁当をつつくことになってしまった。大学生野球部員たちの輪の中にあたしは初めて入ったのだが(これからもこーゆーことはないんだろうなぁ)準太の友達が色んなことを話してくれて楽しかった。利央サンは準太にどれだけいじめられたかって話を涙まじりに話をしてて、利央サンには悪いけれど、ちょっと面白かったりする(準太はお人好しなのに実はちょっぴりエスなんだと思った) 「俺、準太とは違う高校だったんだけど、準太ピッチャーとしてかなり目立ってたんだぜ。」 「へー、すごいねー準太。」 危うく、準太ピッチャーだったんだ、と驚きの声をあげるとこだった、危ない危ない(母親とも知り合いを装ってるくせに準太がピッチャーなのを知らないのは可笑しいだろう)準太は自分の話をされているせいか、少し照れたように手をぶんぶんと振った。でもあたしは続きが知りたいので首を縦に振って頷きながら続きをお願いする。 「榛名はやっぱり別格だけど、準太も行くと思ったなぁ。」 「そーだよ、スカウトあったんだろ?」 はるな?スカウト?なんの話なんだろう。あたしが首を傾げていると利央サンがあたしの肩をつついて、プロ、と教えてくれた。プロって、あれですか、プロ野球ってことですか?すごいなぁと思って準太を見ると、準太はなぜか笑ってはいなくて、またぶんぶんと手を振った。 「榛名と俺じゃ、力が違うっつーの。」 「そーかなー、イイ線いくと思うけどなー。」 「まぁ、褒め言葉としてはサンキュなぁ。」 そこで準太は笑顔になった。ヘトヘトになるまで練習をする準太は、きっと野球が大好きなはずだ。スカウトがあったのにプロにならなかったのはなんでだろう?考えても出会って間もないあたしに分かるわけがないので、考えるのはやめにした。とりあえず、はるな、っていうのが誰か分からないので(プロ野球見たことないし)あとで携帯で"はるな プロ野球"で検索してみることにした。 ----- 練習試合が始まった。相手の大学はニュースとかで聞いたことがある大学だった(そういえば、桐青大学も聞いたことがある気がする)あたしは準太の親戚ということでなぜかベンチに座らせてもらっていた。仲良くなったので居づらいということはないし、試合がよく見える最高の場所だった(ありがとうございます、ウソついててごめんなさい!)先攻は相手大学だった。つまりは、桐青大学が守りってことだ。準太は真ん中に立ち(マウンドというらしい)キャッチャーをじっと見た(うわ、当たり前だけど真剣だ)そのキャッチャーが利央サンだったことには数分後に気がついたんだけど。 「一番、ショート生垣くん。」 バッターの名前が呼ばれ、準太が構える。そのタレ目がちな目はただ真っ直ぐに見ている。準太は小さく頷いてから腕を動かした。大きく振りかぶって…投げた! 「(うわ)」 気持ちいい音をたててそれはキャッチャーのグローブ(ミットというらしい)におさまった。思わず身震いしそうになった。プロ野球の観戦には、父親に連れ出されて二回くらい行ったことがある。だけど、それとは違った感じがする。あたしは野球のことなんかぜんぜん分かんない。素人もいいとこ素人だ。だけど、準太が楽しそうにしているのと、準太が野球を好きだということは分かる。ストライク、バッターアウト!と審判の人が言うと、準太は人差し指をたてて、ワンナウト、と声をあげた。思わずその場で拍手を送ってしまった。変に思われただろうか、あたしはさりげなく周囲を見渡した。 「もしかして準太の試合見るの初めて?」 「あ、はい、実は。」 これはウソじゃないです、ほんとです。そんなことを話していたら、ストライク、バッターアウト!とまた聞こえてきた。ツーアウトだ。準太は不敵な笑みを浮かべて、ツーアウトとまた声をあげる。なんか眩しいや。きっとあそこは冬の寒さなんてぜんぜん感じられなくって、もっとこー神聖な空間なのかもしれない。あたしは一緒に住ませてもらって約三日目で初めて準太の本当の姿を見た気がした。なんか、カッコイイぞ、準太。 |