
「準太、おめでとー&お疲れ様ー!」 練習試合が終わり、クールダウンと反省会、片付けの間も待っていたと一緒に帰ることになった。帰りにデパートに寄りたいと言われたのでデパートに寄り、買い物に付き合ってたら時間は6時をまわっていた(の行きたいとこと俺の行きたいところをまわってたから、仕方ないか)けっきょく、夕飯は食べて帰ろうということになって現在に至る。パスタが食べたいというの主張を聞いて俺たちはデパートの中のイタリアン料理の店に入ったわけだ。水で乾杯をするがなんとも無邪気だ。 「練習試合だっつの。」 「でも準太ほとんど打たれなかったじゃん、すごいよ!」 満面の笑みでは喜んでいるから、実は俺はマンザラではなかったりする。なんだか照れたので、それがバレないように運ばれてきたパスタを口にいれて誤魔化した。うん、けっこういける。もパスタを一口食べて、おいしい、と言った(もしかしたら今度はパスタを作りたいと思ってるのかもしれない)俺はボロネーゼを頼んで、はカルボナーラを頼んだ。ディナーのセットでデザートまでついてくるみたいだが、意外にもリーズナブルな値段だ。 「あれすごかったなぁ、なんか曲がるやつ。」 「…シンカーのことか?」 「しんかー?たぶん、それ。」 高校の頃から決め球として使ってるやつ。二年生の夏にはそれを打たれて初戦負けしたけど、それでも和サンが、シンカーが強みになる、と俺に言ってくれたのでそれ以降も使い続けた。今では高校の頃よりも落ちて打者には打ちにくいようになってる、らしい。最近は利央も難なくとれるようになったので加減しなくてもいいし。は今日の練習試合がよっぽど楽しかったのだろうか、さっきから野球の話題しか出ていない。プロの選手と話したことがあるくらいだから、学生の野球なんて面白くないかなと思ってたんだけどな。笑いながらを見ると、今度はちょっと神妙な顔を浮かべていた。 「準太はプロにならないの?」 まさかの言葉に俺は一瞬呆けてしまった。"そーだよ、スカウトあったんだろ?"あの言葉を聞いたからか。確かに、スカウトがなかったわけじゃない。榛名に比べたら本当に可愛いものだと思うけど。それでも俺のシンカーは使える、と言ってくれたのは事実だ。それは嬉しかった。和サンと同じことを言ってくれる人がいたんだ、それもプロの世界に。けど。 「プロで活躍できる人は多くはないだろ。」 俺はプロでやっていける自信はなかった。俺が投げられるのは、俺を信じて、俺の背中を押してくれる人がいるからだ。落ち込んだら励ましてくれる人がいるからだ。だけど、プロは違う。そんなんじゃすぐに落ちていってしまう。そうなれば周りに負担をかけるだけだ。自分のメンタルが強くないことくらいは重々承知の上だ。だからこそ、あの夏の敗北の後、俺はしばらく部活に顔を出せずにいたのだから(今思えば、あれは根強いトラウマなのかもしれない)しばらく黙ってしまった俺をが心配そうに見ている。それに気がついて俺はパッと顔を上げた。 「学生野球も楽しいしな。」 「準太。」 「ん?」 「急がなくてもいいと思うよ。」 はただそう言っただけで、パスタを再び食べ始めた。だけど、意味は分かった。"自分の未来を決めることをそんなに急がなくてもいいと思うよ"そうは言ったんだ、と。俺は見えないように苦笑して、俺もパスタを再び食べ始めた。目の前で美味しそうに食べている高校生が、やけに眩しく見えてしまった(最近の女子高生って、ほんと、すごいもんだな) 「デザートお持ちしました。」 ティラミスとイチゴのチーズケーキ。は大袈裟なくらい目を輝かせている。こんなところを見ると、異常なほどの観察力の持ち主(異常人)だとはまったくもって思えないんだけどな。イチゴのチーズケーキを角度を変えながら何度も何度も見ているに俺は思わず吹き出してしまった(あ、久しぶりにツボに入った気がする)が目をパチクリさせながら俺を見ているのに気がついたが、俺はツボに入るとどーにもこーにも簡単に抑えることができないんだ。腹を抱えて笑ってる俺を見て、ビックリしているのは分かるんだけど、可笑しすぎて…っぐ、ふっ。 「ビックリしたぁ、準太って笑い上戸だったんだ。」 「笑いのツボが可笑しいって、よく言われる。」 「そーだよ、可笑しいよ。」 やっと笑い終わって、デザートに手をつける。チラリとティラミスを見たに気がついたので、俺はフォークで二、三口分くらいすくって皿の横に置いてやった。まさかもらえるとは思わなかったのか、は、え、と声をあげたが、すぐに、ありがとう、と笑顔を浮かべた(こいつは素直に、ありがとう、が言える人間だと思う、どんな場面でも)お返しに、と言っては俺の皿にイチゴを乗せた。これ、メインだろーけど、いいのか? 「今日はあたしがお金出す!」 「バカ言うな、黙って奢られろ子どもめ。」 「高校生をなめるなぁ、高校生だって恋愛できるんだぞ。」 それ関係ないだろ!と思ってしまい、またツボに入りそうになったけど、次は頑張って堪えた。まぁ、話は合ってないけど、高校生だって恋愛するわな、そりゃ。俺だって初恋、だったと思うであろうオンナノコはいたわけだし(しかもお前に似てたりするんだけどな、実は) 「まぁ、そだな、16歳になれば女は結婚もできるしな。」 なんのけなしに言った言葉だったが、なぜかの表情が一瞬だけ強張った気がした。俺は慌てて声をかけたが、そのときにはもう元に戻っていた。もしかして気のせいだろうか。そう思いながらも俺はチーズケーキを口にするからしばらく目を逸らせないでいたりする。 ----- 家に戻ると夜の8時を過ぎていた。何気なくテレビをつけると、シーズンオフではあるが、プロ野球選手のインタビューらしきものがあった。は頼んでもないのに風呂掃除をしにいった(ありがたい通り越して悪いんだけど、本当)俺は別に何も思わずにそのテレビを見続ける。なんとなく気持ちが軽くなったのは、確認するまでもなく、の言葉だと思う。大学生、社会人になってからプロのスカウトの目に留まることも少なくはない。もしかしたら(自惚れかもしれないけど)俺にもスカウトがくるかもしれない(実際、うちの学校は今現在強いと言われている)そのときは、高校のときの俺とは違う答えが出てるかもしれない。 「あー、何の番組?」 風呂掃除を終えたであろうが来た。野球のインタビューらしきもの、と言うと、榛名って人はいるかなー、と探している。確か、榛名はこの球団だったはずだ。それなら、新人とはもう言い難いかもしれないけど、最近また名前が広まった投手としてインタビューされないわけがない。俺もの隣に座ってからテレビを見る。 「これが榛名。」 「おぉ、これが噂の榛名サン。」 なんか、またでかくなったような気がするのは気のせいだろうか。球速も速くなってたな、まぁ、俺は剛球で勝負する派じゃないから種類が違うけど。 「榛名は、無名校を有名にしたんだぜ。」 「へぇ、すごいねぇ、対戦はした?」 「一回だけ、総合力は桐青の方が上だったから勝った。」 「おー、準太すごーい!」 「俺じゃねぇよ、点取った奴がすげぇ。」 「でも投げたの準太でしょ。」 「まぁ、そうだけど。」 「それならやっぱり、準太すごいよ。」 あまりにもが優しく笑うので、思わず手を伸ばしそうになった。手を伸ばして、どうしたかったのかは俺にも分からない。いや、分かりたくなんてない。二、三度俺は頭を振って、視線をテレビに戻した。榛名のインタビューは既に終わっていて、ちょっと興奮したアナウンサーがなんかいろいろ言っているだけだったりする。あと十分くらいでお風呂沸くから先にどーぞ、と言っては部屋へと戻っていった。俺はその後姿をチラリと見て、何の意味が含まれているのかは不明だが、溜息をついた。 |