
「準太、聞いて聞いて聞いてー!」 勢いよく玄関のドアを開けたかと思うと、マジ勢いに身を任せたように入ってきた(しかも早すぎだろ!)確かに俺が、戻ってこい、って伝えたんだけど、ここまで勢いをつけなくてもいいと思う(今にも倒れるかと思ったので慌てて支える手を出してしまった)何かを聞いてほしかったらしいだったが、俺の後ろに見知らぬ人物がいたためか、そっちに視線を向けた。そして、意外と冷静で(まぁ、はけっこー冷静なタイプだと思う)ペコリとお辞儀をした。後ろにいる人、の片方の反応が見えなくても分かる。 「へぇー、けっこう可愛いじゃん同居人。」 「高校生ですからね、手を出さないでくださいよ。」 「それが先輩に対する態度かぁ、おら。」 気持ち悪いくらいニヤニヤしてる慎吾サンに思わず本音をもらしてしまえば、慎吾サンはヒクヒク笑いながら俺にヘッドロックをかましてきた。隣にいる和サンが苦笑しながら慎吾サンをとめようとしている(とめるなら本気でとめてください、これ、けっこー痛いんスよ)やっとのことで解放されると、の方を俺は見た。同居人って言葉が出たことで、頭の回転の早いには状況はほとんど分かっているだろう。そう、利央のバカのせいで同居人がいることがバレてしまったんだ(利央が無許可での部屋になっている部屋を開けてしまったせいで!)利央を睨んでやると、利央はヒッと声をあげて後ずさりをした。 「準太の高校のときの先輩ですか?」 「そー、俺とこっちのが準太のいっこ上。」 「河合和己です、こっちが島崎慎吾。」 「どうもご丁寧に、高瀬です、はじめまして。」 和サンとは深々と頭を下げた。その間も慎吾サンはニヤニヤしながらを見てる。まさか、慎吾サン…!(いや、それはないだろう、さすがの慎吾サンでも高校生には目をつけることはない、と思う) 「でもビックリしたよぉ、準サン家に住んでるなんて。」 「あはは、ビックリしましたか?」 「するよー、いくら親戚でも二人暮しって…。」 「実は準太とあたしは生き別れの兄妹なんですよー。」 「えええええ!」 おいこら利央、そんな分かり易いのウソをまともに信じてどうする。は前に俺のことをお人好しだと言ったけど、利央はお人好しを通り越して、ただのバカだと思う。誰も訂正してやらないので利央はめちゃくちゃ複雑そうな顔をして黙って俺との手を握った(こら、女の手をそう簡単に握るか普通!)和サンも苦笑しているだけで、訂正してあげるようすはない。慎吾サンなんかもってのほかだ。一応利央もからしたら年上だというのに、も笑ってるだけで謝ったりするようすもない(完全に利央で遊んでいる状態だ)そんなだったが、急に何かを思い出したように、あ、と声をあげた。 「ご飯ここで食べます?何か作りましょうか?」 「え、それは悪いだろうし…。」 「はいはいはい、俺ちゃんの作ったの食べたい!」 「うるせーよ利央。」 「うるせー利央。」 「準サンと慎吾サン、ひどいぃ。」 もとはといえば、昼飯は食べに出るはずだったのに、の思わぬ言葉に利央が調子に乗ったから冷たく言い放ってやったけど、それでもにお願いしていた。料理にはまったらしいはそれを喜んで受け入れた。一度中華丼が食べたいって思ってたの、と言って嬉々としている。和サンたちもそれでいい、ということになったので昼飯は中華丼になった。最近はレトルトで美味しいのもあるらしいが、はどうやら最初から作りたいらしい。まぁ、時間もまだ充分にあるから大丈夫らしいけど。 「それじゃあ、さっそく買い物に行ってきます!」 「ちょっと待て、材料とか分かってんのか?」 「豚肉300g、白菜4分の1、しいたけ5枚に人参2分の1本、その他野菜適量、うずらの卵が12個、中華だしおおさじ3に水が300cc…。」 「分かった分かった、もういい。」 早々と玄関に向かって行こうとするを呼び止めたわけだが、どうやらレシピを丸暗記しているらしい…。中華丼が食べたいって言ったのは、きっとこの間見た料理番組の影響からだと思う。まさかそのテレビの内容を丸覚えしてるとは思わなかったけど(いったいなんなんだこの記憶力) 「あと何か飲み物とかも買ってくるね、ペットボトルかな。」 「それじゃ重たいだろ。」 大丈夫だよ、と笑って言うに、慎吾サンが一歩前に出て、ついて行こうか?と言った。なんか嫌な予感がしたので、慌てて二人の間に入った(なんか慎吾サンなら高校生とか気にせずにモーションかけるような気がヒシヒシとした)慌てたような俺にはちょっとビックリしたようだが(ちなみに慎吾サンは微かに舌打ちをした、ぜったいにした)俺が行く、というとまた笑って、じゃあお願いしよう、と承諾した。一応は家主である俺が抜けることになるけど、別に気にするような人たちでもないだろうし(和サンは違うけど)テレビの台のところにゲーム機があるのを知ってるから、好き勝手にゲームをするに違いない。食費用の金が入ってる財布(が来てからできた財布)を持って二人で近くのスーパーに向かった。 「つーか、お前、なんつー記憶力。」 「一度見たものはだいたい憶えるよ、教科書の中身とかも。」 「マジ?じゃあ、国語の教科書の話とかも?」 「或日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待つてゐた。廣い門の下には、この男の外に誰もゐない。唯、所々丹塗の剥げた、大きな圓柱に、蟋蟀が一匹とまつてゐる。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男の外にも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありさうなものである。それが、この男の外には誰もゐない。」 「…なにそれ。」 「羅生門だよー、芥川龍之介。」 聞いたことはある、たぶん、高校のときに習ったはずのものだ。俺はまったくもって内容を憶えてないけど。最後まで言えるよ、と平然に言ってるを改めてすごい奴だと認識した(俺は話の内容なんて憶えてないけど、きっとは一文一句間違わずに憶えてるに違いない)ちょっとある意味怖い能力だ、気をつけよう俺、いろいろと。そうこうしている間に俺たちは目的のスーパーに着いた。野菜売り場に真っ先に向かい、はいろいろ見てる(どうやら野菜の見分け方を何かの本で見たらしい)豚肉も安売りを見つけて嬉々としている。きっと気分は主婦に違いない、っと…やめとこう、この例えはなぜか自分の心臓に悪いような気がする。 ----- 「そういえば、準太に聞いてほしいことがあるんだった。」 「なんだよ。」 買い物を終えての帰り道。は思い出したように声をあげた。中華丼の材料の他に、ペットボトルの飲み物と少し菓子も買った。思った通り若干重たいような気がするので、ついて行ってよかったと思った。それよりも、聞いてほしいことって何だろうか。家出に関すること…じゃないだろうな、あまり言いたくなさそうだったし。それに、なによりが嬉しそうな顔をしている。 「今日の朝さ、実は榛名サンに出会ったんだよ!」 「はぁ?」 「公園にいてね、衝動のまま話しかけちゃった。」 衝動のままってなんだよ、本当に突発的な奴だなこいつは。俺は苦笑してを見たが、何かいいことがあったみたいでは満面の笑みを浮かべている。なんだよ、もしかして榛名に好意をもったとか?そんなことを勝手に思って、自分の眉が一瞬だけ寄ったのが分かった(なに拗ねてんだ俺)そんな俺には幸いにも気づいていないようで、隣に座らせてくれたんだ、と話した。そして、俺の肩をポンポンとたたいた。 「準太のシンカーは曲者だったって。」 「え?」 「またあいつと試合してみたいんだけどなって。」 「…なに言って…。」 榛名が? 「こっちに来いって言ってたよ。」 「…冗談だろ?」 「冗談じゃないよ、高瀬と会うなら伝えてくれって。」 「あの榛名が俺のことをそんな風に言うわけが。」 榛名は高校野球では飛び抜けていた。それこそ、頭ひとつ分くらいは余裕で飛び抜けていた。二年生のときはそんなに差がないと思ってた。それこそ、俺と榛名では持ち球決め球が違う。投手にもいろんな型があるから比べるのは難しいもんだ。だけど、型うんぬんを考慮しても、三年生になったときのあいつは飛び抜けていた。誰もがあいつを特別視していた。俺たちも、大人たちも。俺が監督やコーチなら迷わずに俺よりも榛名を選ぶね。コントロールは努力、スピードは才能と言われてる。それなら榛名は才能プラス練習量だ。俺はせいぜい努力(も、曖昧) 「どんな風に受け止めるかは準太次第だよ。」 は柔らかく笑って言った。"急がなくてもいいと思うよ"あのときもだ、練習試合の後に飯を食ってたとき、スカウトの話をしたとき。は人事だというのに親身になって考え、言葉を選ぶ。そしてその言葉は、直球で俺に届いてしまう。 「ただ、チャンスがあるってことだよ。」 |