10.













榛名サンと隆也は、よくケンカをしていたけれど、何だかんだ言って二人ってけっこういいバッテリーなんじゃないだろうか。あたしはそう思っていた。いや、今でも思ってる。確かにあの頃の隆也は傷だらけで、榛名サンはどこかすさんだような瞳<め>をすることがあったけど。ときどき打たせてもらったり(榛名サンのじゃないけど)キャッチボールや試合形式に混ぜてもらったりしてるだけで、シニアにはほとんど見学だったあたしは、二人が投球練習しているのを、見るのが好きだった。最初は捕れなかった榛名サンの球が、段々と捕れるようになっていく隆也を見るのが、すごく、好きだった。



「うわぁ、隆也、また痣できてる。」

「あのノーコン…ありえねぇ。」



隆也はチッと舌打ちをして腹部をさすった。痣ができるくらい球は速くて重たい。投げるときの榛名サンはあたしが見ても少し怖かった。でも、その反面、どうしてそんな目をするんだろう、とも思った。誰かが榛名サンは怪我をして、それが原因で中学校の部活(野球)をやめてシニアに来たんだと言っていた(誰だったっけ、監督だったっけ、コーチだったっけ)でも、そんな榛名サンもそんな顔が段々と減っていった、ように見えた。チームメイトじゃないし、誰だよこのチビ、って感じの目であたしは見られていたけど、あたしは榛名サンのこと、怖くはなかった。それよりも、この人の球を打ちたい、って気持ちで一杯だった。



「わはは、何コレ!ヌイ目までくっきりじゃん!」

「(てめーの投げたボールで付いた痣だぞ)」



いつの間にか、隆也と榛名サンは普通に話をするようになっていた。隆也まだかなーって更衣室をのぞきに行こうと思ったとき、大きな笑い声が聞こえた。それが誰の声なのか分かったので、もしかして、と思ってあたしはみんなが苦笑いする中更衣室に入った。やっぱり隆也と榛名サンだった。



「遠慮なしに投げてっかんな。お前、怖がんねーからよ。」



ポンッと隆也の頭を榛名サンが軽くたたいたのが見えた。その直後、隆也はすっごく嬉しそうな顔をして大きな声をあげた。それ見てあたしもすっごい嬉しいような気持ちになった。繋がっていってるよ、ちゃんと、一方通行なんかじゃないよ。あたしは嬉しくて多分、ニタニタしながら隆也のところに行ってたんだと思う。そんなあたしを隆也が不思議そうな顔をして見てきて、そのちょっと後に何やら固まった。



ここは更衣室だぞぉぉ!



隆也をからかうような、ときにはあしらうような榛名サン。榛名サンにくってかかる隆也。それでも、二人はいいバッテリーだったんだ。隆也だって、絶対にそう思っていた。…あの試合までは、絶対に、絶対に…。

























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「おい、ッ!」

「え、あ、はいぃ!」



突然田島に呼ばれてハッとした。どうやらあたしは昔の思い出に一人浸ってしまっていたらしい、ありゃりゃ。前に行こうぜ、と田島に半ば引っ張られるようにフェンスの真ん前まで行った。どうやら、また榛名サンが12番の人とキャッチボールをしているらしい。田島は目を瞑ってその音(榛名サンの球の音)聞いて一人、ニヒヒと笑っている(まぁ、その気持ち、分からんでもない!)そんなあたしらの後からフラリと三橋が下りてきた。



「こら!金網の向こうは公式戦だぜ!隠れろよ!」

「う。」



三橋を仲間にいれて三人で体を前に倒す。あ、12番の人が座った。そして榛名サンはグンと両腕を上にあげた。そして、振りかぶって…投げた!風に逆らって勢いよく飛んでいく球、それはミットにまるで吸い寄せられるかのように、真っ直ぐ、見事な音をたててそこにおさまった。速い、速い、速い!(でもこれはまだ、絶対に本気の球じゃない)



「(ん?)」



右隣にいる田島は目をキラキラさせているけど、左隣にいる三橋は逆にブルブルと震えて、それから小さくなってしまった。確かに、気持ちは分からないこともない。あたしが三橋の立場だったらこれは脅威になり得る。投手である三橋は、投手じゃないみんなよりも、もっと、榛名サンの凄さが分かるんじゃないかな(あたしだって分かるけど!)そうこうしていたら攻守交替で榛名サンは去って行ってしまった。まぁいいか、次の回からは榛名サンが投げるんだから。チラリと隆也を見ると、隆也はどこか冷めたような目をしていた。



「あ、榛名サン!」

「うっしゃあ、出たぁ!」



田島は目を輝かせてフェンスを掴んだ。って、いうか、君はスコアを書いたのかぃ?あたしはもう書き終わったよ。えっへん。三橋はまだ書いてないんだろうなぁ、って思って見たら二人が一生懸命にスコアに手をつけていた。もう少しで回収されちゃうよ、頑張んなきゃ!そんなとき、栄口が三橋を呼んだ。栄口の隣には隆也…もしかして昔話をするんだろうか。そう思いながらも、もうちょっと最前列で榛名サン見てから行こうって思ってとりあえずは前を向いていた。打者が名前を呼ばれる前に榛名サンは三振をとってしまった。



「(隆也は、忘れることはないんだろうなぁ)」



関東のベスト8をかけた試合。既に五点をとられてからの投手交代。負け試合に全力を注ぐつもりはないと、一度も本気で投げなかった挙句、榛名サンは満塁のピンチで80球を終えてマウンドを降りてしまった。それは、紛れもなく隆也への裏切りだったんだ。あの直後の隆也は怖かった。初めて隆也が怖いと思った日だった。今まであたしがちょっと男勝りだったこともあって、取っ組み合いのケンカだってしたけれど、怖い、なんて思ったことはなかったもん。



「(ほっぺ…痛かったしなぁ)」



不意にほっぺに触ってみる。もちろん今は痛くも何ともない(そりゃ当たり前だ、昔の話だし)ほっぺを触ったまま、隆也を見上げる。隆也のあの日のような冷めたようで、怒ったような顔が見えた。あんな話を聞いた三橋は、いったい、どう思うだろうか。榛名サンを、最低、だと思うんだろうか。隆也がどう思ってるのか、分かるんだろうか。あたしは一人悩んでいる田島を置いて、隆也たちのところまで上がった。三橋は顔を伏せてしまっている。



「(三橋はきっと、痛みが分かるよね)」



あたしは伏せてしまっている三橋の背中をポン、とたたいた。隆也はね、きっとね、榛名サンとちゃんとしたバッテリーになりたかったんだ、って思うんだ。だから腹がたったし、すっごく辛かったんだ、だから、野球やめたい、なんて一瞬でも言っちゃったんだ。恋愛じゃないけどね、振り向いてほしかったんだ。一人じゃなくて二人でやってるんだって分かってほしかったんだ。あの試合も、今までの練習も、とっても大事で、自分やチームメイトを真っ直ぐに見てほしかったんだよ。でも、隆也は強がりでちょっと意地っ張りで、優しいから…心が痛くても、痛い!なんて言えなかったんだよね。やっと顔をあげた三橋に、あたしは笑ってみせた。



「(次に組んだのが三橋でよかった!)」



あたしが笑ったことに、三橋はちょっと驚いて、それから少しキョドっていたけど、あたしはそのままでいた。それから三橋の手をぎゅーって握ると、三橋は急に顔を赤くしてしまったけれど、三橋が隆也の投手なのが改めて嬉しくて、そのまま握ってみた。その手は隆也によって放されてしまったけれど(なんだよージェラシーですかー?)



「つか、お前さぁ、もうちょっと泣いたりキョドったりすんの、我慢した方がいいぞ。」

「(確かに)」

「マウンドでの話だぜ、そんな顔に出たら守っててバックが困っちゃうからな、マウンドでは…そうねぇ無表情もいいけど…やっぱ笑顔がいいね。」



突然、隆也がニッって笑った。三橋も栄口も内心驚いているのが手に取るように分かる(確かに、爽やかに笑う隆也はちょっと…言わないでおこう)そう口に出さないでいたあたしだけど、隆也に、ホレ、と言われて、あたしもつられるように笑ってみせた。どうだー笑顔はあたしの専売特許だ!



「バックは安心するし、相手はムカツクし。」

「じゃあ隆也、今度の試合はずっとそれでやってね。」

「…ほら、やってみな。」

「(スルーした!)」











痛み、乗り越えろ!
大丈夫、隆也は笑ってる、痛みも、乗り越えられる!











後書

榛名サン目立つ第二回。
彼は喋ってないのに夢主視点だからつい。
イマイチ阿部くんとの会話がよく分からない。
ほっぺの話は次回になります。
次も榛名サン編ですね。
次で終わりかな、それは。