11.













試合は中盤に武蔵野が逆転に成功し、4−3のまま最終回をむかえた。そしてこの打者を打ち取れば終わり。それもアウトが残りひとつ。ちなみに走者はいない。途中から確信したけれど、武蔵野の勝利だ。打力がよく分からなくてスコアもイマイチ不安だったけど、どうやら4−3っていうのは当たった(知り合いヒイキで武蔵野の勝利は初っ端から考えていた)榛名サンはロージンバッグをポンポンと投げていたかと思うと、バッとこっち(西浦が陣取っている方)を見た。



「(隆也を見た?)」



遠いから、さすがの隆也でも表情までは見えないだろう。でも、何か感じるものがあったんだと思う。隆也は田島に声をかけた。もちろん、あたしも逃すはずはない!腕を振り上げ、右足を高くあげ、左腕を、大きく…振りかぶった。



「速い!」



きっと、誰もが目を逸らせなかったと思う。今までとは比べ物にならないくらいの剛速球。それは捕手のミットにはおさまらず、いや、おさめきれずに弾かれてしまった。その間に打者はバットを空振りファーストへと走った。だが、けっきょく浦総は次の打者で三振をとられてしまい、試合は4−3で武蔵野第一高校の勝利で幕を閉じた。あの本気の球は、一球だけだった。だけどその一球は確かに凄かった。相変わらずあの球はあたしの好奇心をこれでもかってほどかきたてるんだ!



「さて、帰ろっか。」

「二試合目は観ないんですか?」

「あの辺が限界だからね。」



百枝監督の指差した方を見てみると、あららー、いつの間にか氷鬼が始まっていた(野球の試合中じゃなかったら、きっとあたしも参加してただろーなー)



「さ!ひとっ走りしたらお昼だよ!」

「やっぱ帰りもランニングか…。」

「いいじゃん、ランニング楽しいよ花井。」

「お前に恥ずかしいはねぇのか。」



監督の合図で整列する。千代と監督は自転車に乗り、あたしは行きと同じようにみんなの後ろに並んだ。いい運動になるー。それにみんなと一緒に走るのは楽しい。さぁ走ろうって思ったとき、あたしは自分の携帯電話がポケットにないことに気が付いた。あー!トイレに言ったときに置いてきてしまったんだぁ!



「ご、ごめんなさい監督、先に戻ってて下さいー!」

「どうしたのちゃん。」

「忘れ物しました!一人で帰れますから、どうぞ!」



と、言ったら千代と一緒に帰っておいで、ということになった。ごめんね、千代ー。トイレに行くと案の定携帯電話がポツンとあった。ジャージのポケット浅いから携帯落としちゃいそうで、安定したところに置いてしまったんだよね。トイレから出ると、さっきまではそんなにいなかったのになぜか団体さんが歩いていた。どうやら、浦総の応援団の人たちらしい。まさか武蔵野に負けると思わなかったんだろう(だって浦総強いのは本当だし)ちょっとトボトボしながら歩いているように見えた。千代とその団体さんの隙間を歩きながら出口に向かう。そのとき、何か聞こえた気がした。



「千代、呼んだ?」

「ううん、呼ばないよ?」


あれ。気のせいかな。

























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「クッソ、あいつ待っとけっつったのに。」

「あぁタカヤ?シニアで組んでたキャッチャーだよね。」



試合を終えた榛名は隆也の姿を探しに球場の外に出た。が、そこに探す人物の姿はなかった。彼を追いかけてきた秋丸もキョロキョロと彼を探す。



「てっきり、タカヤの隣の子を見たいがためかと思った。」

「…別に。」



それもあるが、とは榛名は言わなかった。彼は腕を組んで何やら考える。脳裏にシニアにいた頃の映像が過ぎった。今日見たより小さくて髪ももっと短い隆也と彼の近くにいた、彼よりも小さな子。"…っひ、た、たかや…ひっ、く、おこった…ヒクッ"誰かの声が思い出された。小さくてぶかぶかの帽子をかぶって、ぶかぶかのユニフォームを着ていた。榛名は歩きながら考える。喉元まで何かがきている。



「(そうだ、いつも何が嬉しいんだってくらい笑ってたくせに、一回だけ、そうだ一回だけ嘘だろってくらい大泣きしてたんだ、アイツ。いつだ…確か、あ、そうだ、ベスト8を決める試合のときだ…あー、俺が…まぁ、そんなこともあるさ、うん)」

「おーい、榛名、一人で何納得してんだよ。」

「(タカヤに怒られたって、右の頬赤くはらして…つか、殴るってどうなんだよタカヤ…まぁ、とやかくは言えねぇけど)」



たぶん、あの試合のあとタカヤを慰めようとでもしたんだろう、あいつは。けど、タカヤに余裕がないから、手、出しちまって、それに驚いて泣いたんだろうな。走ってぶつかったときは、怪我したらどうすんだコノボケ!って思ったけど、ぶつかったのがあいつで、それに加えて珍しく泣いてるもんだから怒鳴る気も失せちまった。話しかけたらワーワー泣き始めるし、あのときはマジ困ったぜ。泣くな、泣くなよって、俺が必死で慰めた、俺が慰めるんだぜ?それなのに一向に泣き止む気配がないから、泣き止んだら今度お前に投げてやる!って言ってみたら、嘘みたいにピタリと泣き止みやがった、め…ん、



そうだ、だ!

「うわ!いきなり叫ぶなよ!」

「そうだ、タカヤの双子ってじゃねぇか。」

「ってことは、女の子?」

「そうだ、だ、女だった女だった!」



榛名はやっと思い出せて、スッキリしたような表情を浮かべた。球場に入るといきなりの人の群れに二人は驚いていたが、隙間を無理矢理割り込むようにして進んでいく。と、そのとき、彼らの横を通り過ぎていった人物が榛名の目に映った。突然立ち止まった彼に秋丸がぶつかる。



「急に立ち止まるなよ!」

?」

「榛名、どうした?」

ー!」



榛名は叫んだが、彼女が振り返ることはなかった。人があまりにも多すぎた。ガヤガヤと賑やかな人ごみに、榛名の声はまるで吸い込まれるようにして消えてしまった。追いかけようとしたけれど、それは人が壁になって阻まれてしまう。気づけば彼女の姿は見えなくなってしまっていた。榛名は舌打ちをしたが、追いかけるのを諦めてグラウンドに戻っていった。もしかしたら、人違いかもしれない、と。



「(だいたい、は女らしさの欠片もなかっただろ)」



肩までの綺麗な黒い髪、優しく愛らしく笑う少女。それがあの彼女だったんだと、榛名が気づくのは、もうちょっと先のことになるのである。











声、聞こえない!
あれー、確かに誰かに名前呼ばれた気がしたんだけどなー。











後書

榛名サン目立つ第三回。
榛名サンに暴露してもらった過去話。
それでも阿部兄妹は仲の良い双子です。
悔しさと辛さでつい手が出ちゃっただけ。
あの後、阿部くんが本気で謝ったのですが、
夢主はえらくアッサリと許してしまい、
その上なぜか上機嫌なのでなぜか心配になった兄様。
(頬殴ってどっかいかれたんじゃないかと)
中途半端ですが、榛名サン編はとりあえずお終い。
また彼には登場していただく機会を作ります。
個人的趣向。

人ごみのはずがない。
多分、本当はガランガラン?