
朝の五時にグラウンドに集合、授業を受けて、夜の九時に部活終了。そんな思い切りスポコンな過酷な練習。に、みんなが聞くと思えるらしい。クラスの友達はそう言って哀れそうに見てた。でも、あたしもみんなもそんな過酷な練習を楽しんでいる。これってやっぱり百枝監督が凄いからだよね!初戦の日はだんだんと近付いてくる。だけど、みんなからはもう焦りや弱気なオーラは感じられない(うん、イイこと!) 「監督、でっできました…!」 「桐青のデータね!?」 ある日の練習。監督が録画していた桐青の試合のビデオを千代がちゃんとしたデータにまとめてきた!凄いよ千代(あたしはそういうのは苦手です)徹夜したからだろう、千代はヘロヘロだった。打者別のリード、リードに対する投球、投球に対する打者の方向…その他もろもろ!(やっぱ千代凄い!) 「充分だよ!ありがとお!ありがとお!」 「…千代、だいじょーぶ?」 今日はオニギリあたしが作るよ、って言ったけど、千代は笑って首を振った。あたしは練習にまざるから疲れるだろうって?大丈夫、千代の方がきっと疲れてるよ。そう言ったけど、千代は譲ってはくれなかった。じゃあ、オニギリ手伝いに行こう。あたしはそう決めて、千代によく眠るように言ってから練習へと戻ることにした。どうやら隆也と花井は監督とデータ解析らしい。隆也の代わりに今日は田島が捕手。あたしは監督から練習メモをもらうと、とりあえず、そのメモ通りに練習の指揮をとることになった。 「投球練習なんかお前一人でもやってんじゃんか。」 「ち、ち、ち、がくて。」 何だかモジモジしているような三橋に隆也が気が付いた。三橋は何やら持ってくると(角材?)それを地面に置いた。そして、その上に右足を乗せて、投げる格好をする(左足をあげてピタリととめる)おお!転げない、落ちない!あたしは拍手を送った。合宿のときはあんなに派手に転げ落ちたのに、頑張った三橋!どうやら三橋は休み時間にこれを練習していたらしい。そんな三橋の頭を隆也がグリグリとやった(これけっこう痛い!)だが、隆也は怒ってなんかない。素直に、よくやった!とか、頑張ったな!って言えないのは愛嬌!(違うか)そのまま隆也は花井と監督とデータ解析に行ってしまった。また誤解されちゃうぞー? 「怒られた…。」 「怒ってなかったぞ、声に怒気がなかったもんよ。」 「うん、怒ってるときの顔じゃなかった。」 「ほんと?」 「が言ってんだから間違いねーよ。」 田島はどこからともなくペンを出すと、三橋の練習着の一番を上からなぞった。いくら油性ペンといえど、洗濯を何度もすれば薄くなっていくよね。一番が濃くなるのと同時に三橋は何だか元気になった気がした。 「田島くんは凄いな!」 「そーか凄いか!」 「あはは、田島凄い!」 「お、俺は、も、凄い、と思う!」 「うん、俺もー。」 「やったぁ、あたしも凄いの仲間入り。」 三橋と田島のバッテリーも何だか面白そうだ。控えにしては田島の捕手はさまになってるし。やっぱり田島のセンスは凄い!三橋のコントロールも凄い! 「微笑ましいんだけど、あいつらの会話聞いてると、たまに凄く疲れるの…(含めて)」 「俺はね、力が抜ける(含めて)」 「俺はもう慣れたぜ(含めて)」 水谷、沖、泉に、そんなこと言われてたりするらしーけど、あたしたちに聞こえるはずもないのです。 ----- 時間が経つのは早いもので、あっ!という間に開会式の日を迎えてしまった。みんなは入場行進からなので今は違うところにいる。あたしは千代と一緒にマネジの集まる(大会歌を歌うから集まってる、あたしはちなみに練習には参加してないけど、歌は全部知ってるからだいじょーぶ)千代は誰か先輩を見つけたみたいで大きく手を振った。あたしも桐青のマネジ、高瀬先輩に呼びかけられたのでそっちに向かった。 「久しぶりー。」 「抽選会で会わなかったから、半年ぶりくらいですねー。」 学校見学で桐青に行って以来、高瀬逸子先輩には会っていない。お互いに部活動忙しいし(もう一回準サンの球打ってみたいけど)グラウンドの方を見ていると、高瀬先輩はあたしのかぶっている帽子をとって、あたしを見た。 「、髪伸びたねー、可愛くなった。」 「えー、やはは、そうですかー?」 「うんうん。」 そういえば、あのときはショートボブだったっけ。今は伸びて肩より長くなっている。そういえば、抽選会のときに榛名サンに会ったときには"俺のために可愛くなりましたくらい言えよ"って言ってたなぁ。そうか、女の子って髪伸びると可愛くなるのか…。ふむふむと一人納得しているあたしを見て、先輩はおかしそうに笑った。 「(準、と会ったらどんな反応するかしら)」 今度は違うような笑みを浮かべているけど、どうしてそんなに楽しそうなのかが分からない。先輩を見て、首を傾げてみると、先輩はあたしの頭を犬を撫でるかのように撫でた(もしかして、あたしの前世は犬!)と、そのとき、演奏が始まった。アナウンスにより、開会式が始まったのだ。あたしも先輩も妙に反応して、手を膝の上にしてバッと前を向いた。先輩の所属している桐青は去年の優勝校だから一番最初に旗を持って歩いてきた。 「出た、出た出た!」 「(あの人、前に捕手してた人だ)」 先輩は他のマネジの人と顔を見合わせて何やら興奮している(その気持ちよく分かる!)それからは学校番号順に次々と入場してくる。西浦は?西浦は?あたしはみんなが出てくるのをまだかまだかと待った。あ、先に武蔵野だ…榛名サンが出てきたもん。あたしがポツリと言った名前が聞こえたんだろう。 「、榛名くんと知り合いなの?」 「隆也がシニアで一緒だったんで。」 「へぇー、榛名くん凄いよねー、球。」 うちに来てくれればよかったのにー、と先輩は言った。準サンと榛名サン…なんて贅沢な組み合わせ(って、いうか、隆也も桐青に来てくれればって言ってたけど、もし行ってたら、いったいどんな野球部になるだろうか)どうやら、やっぱり榛名サンは有名らしい。80球しか投げないからその辺を嫌な風にとらえる人がいてもおかしくはないかもしれないけど、実力がものをいう時代(ちょっと大袈裟かな)なので周囲はそれよりも"凄い投手"として見ているみたい、あたしも。 「あー!西浦出た!」 次の瞬間、いっちにーいっちにーとみんな何気に緊張しているような表情で歩いてきた西浦野球部が目にはいった。隆也は何気に平気そうな気がする(つ ま ん な い!)それでも一人何気に拍手を送りながら眺めていたりする。だって、みんな初めて舞台に立ったんだから!練習試合とは違う、公式な舞台。 「おー、隆也くん身長伸びたねー。」 「ますます差がつけられちゃいました。」 「いーのいーの、はそのままでいーの。」 きゅっと抱きしめられて首を傾げる。高瀬先輩は身長が165以上あるから羨ましいんですが…(5cmでもいいので分けてくれませんかね?)全校が並んで開会式が始まる。誰かの挨拶がある中、あたしはずっと前にした隆也との約束を思い出していた。いきなりの強豪との対戦だけど、マネジとしてでも、うちが負けるなんて弱気な想いはいっさい存在していない。うち頑張ってるもん、みんな頑張ってる。青空を仰いで、あたしは一人無意味だけど大きく息を吸い込んだ。 |