
開会式が終わって数日後の今日。応援団をつくってくれた浜田(本名を浜田良郎という)が練習に顔を出しに来るらしい。同じクラスだし、泉の元先輩ということもあってかなくってから、浜田とはけっこうお話をするし、いろいろと学校ではしゃいじゃうときもある。田島と鬼ごっこをするから一緒にやろーと誘ったときは最初にすごい嫌そうな顔をするけれど、はいってくれるから浜田好きだ。あたしはついこの間やった鬼ごっこで慌てた浜田が尻もちをついたのを思い出して笑った。 「なに思い出し笑いしてんだよ。」 「いやー、この前鬼ごっこしたときの浜田の尻もちが。」 「野生児の遊びに人間混ぜるなよ、危険だろ。」 「誰が野生児だ、誰が!」 ところで、今は部活を終えてみんなはグラウンド整備をしていたりする。あたしはお片づけを千代としている。笑いながら歩いていたらトンボをもった隆也にその先っちょでつつかれた、というわけでありマス(つつくなぁ!)って、いうか、浜田はいつ来る気なんだろう。もう日も暮れてしまってますよー。いよいよ明日が一回戦、桐青高校との試合ということで今日はいつもよりも早めに練習を終えたんだけど(もしかして今日早く上がることを知らない?)そんなとき。 「なんだ浜田そのカッコ!」 野生児U(隆也いわく)の声が聞こえてきた。浜田、という名前にあたしも反応してボールの入ったカゴを抱えたままそっちに走った。浜田は学ランを着ていた。わっ、なんだか応援団長っぽい!そう言ったら、一応応援団長なんですけど、と言われた。ドンマイ! 「こいつら、援団一緒にやってくれるっつーから面通し。」 「よ、よろしくー。」 どうやら、二人は浜田の元クラスメートらしい。ってことは、ひとつ年上になるわけだ。気づいたみんなは脱帽して挨拶をする。あたしもハッとして脱帽(ユニフォームはもちろん、帽子だってかぶってるから普段)して挨拶をした。その場にいた人はみんなそうしたんじゃないだろうか。ちょっとお二方がビックリしているのが分かった。 「ねぇねぇ浜田、明日は何人くらい応援来るの?」 「200人くらい。」 余談だけど、浜田に話しかけられた三橋は知らない人にオドオドしてて、隆也に呼ばれて逃げるように行ってしまった。200人もの人が応援に来てくれるらしいけど、三橋は大丈夫かな。あれだけ瞑想で鍛えたら大丈夫かなー。あ、いや、三橋なら試合よりも応援団にビビっちゃいそうな気がするのは…あたしだけなのかな?そんなとき、泉が来た(違うとこ片付けてたんだよね泉は)二人は前からの顔馴染みだけに、仲がいい。クラスでも見てるのけっこう面白いし。泉から浜田がリトルリーグ肘って聞いたときは少し驚いたけど。…なんだかんだ言っても、泉は浜田とまた野球したいんじゃないのかなぁ。 「(隆也と三橋は何しに行ったんだろ)」 あたしはじゃれ合っている二人をチラリと見て微笑ましい視線を送ってから隆也たちが行った方へと向かった。試合前だから打ち合わせとかそういうのに違いないけど。二人はベンチに座っていた(あれ、なんで三橋ベンチで正座してんの?)あたしも隆也の横にちょこんと座ってみる。怒らないから、いても別にいいんだろう(ちなみにお片づけは終了しています) 「今からレギュラーの得意コースと不得意コースだけ頭に入れろよ、それならこの一枚だけだからさ。」 ヒラリと隆也の手から一枚の紙が投げられた。それを手にとって三橋は視界にいれる(千代が頑張った証の紙だ!)三橋はそれをジッと見ていたけれど、少しずつ、少しずつ、なぜか三橋の目が閉じていく。おーい、まだ寝ないでー、せめて少しでも頭にいれちゃった方が楽だよー!って思ってるとき。 ガンッ 「はーい、おきてくださーい。」 隆也が思い切り前にあったベンチを蹴った(器物破損罪!)横にいたあたしだって思わず心臓がとびでちゃいそうなくらい驚いたわけでありますが、視線を向けられているであろう三橋はもー最初みたいにガタガタしております!ちょっと待て隆也、ホーム!ホーム! 「投げるときにさ、俺が外ギリギリに構えたとしてそこをその打者が好きか嫌いかくらい知ってねーと。」 「…お、俺、知ってても考えない。」 「はぁ?」 「阿部くんが、かまえたとこ、投げる、だけ、だから。」 途切れ途切れに言った三橋の言葉があたしの心にも響いた。きっと、隆也にも響いてる。これは"信頼"の言葉だ。一方通行なんかじゃない、繋がっているってことだ。あたしは自分のことのように嬉しくて、隆也の背中を思わずたたいてしまいそうになったけど、隆也は隆也で感じるものがあっただろうから、一生懸命に我慢しておいた。三橋が紙を見始めると、あたしはそこから席をたった。最初はちょっとだけ心配だったバッテリー(だって隆也が隆也だし、三橋も三橋だし)だけど今は全然問題ない。三橋がもうちょっと投球に自信をつけたら、隆也に頼んで打席勝負をお願いしてみよう、そう思いながらあたしは空を仰いだ。 ----- 同県内、桐青高校。そこは西浦と同じく明日の試合に備えて練習をいつもよりも早く終えていた。主将であり正捕手である河合和己は正投手である高瀬準太に声をかけた。 「この一年はバッテリーで世話になった、ありがとな。」 「…なんで今ゆうんスか?」 若干困惑の表情を浮かべる高瀬に河合は気づいているのか気づいていないのか、表情を変えずに、明日はここじゃ投げないから、と控えめに答える。 「明後日投げるでしょ。」 「…そっか、明後日投げるか。」 「そっすよ。」 去年の優勝校であるとかないとか、そういうのは関係なしに彼らには"負け"という言葉は存在していない。高瀬だってそうだ。だからこそ彼は眉を寄せ、強調するようにそう言った。それに気が付いた河合は言葉を言い換えることにした。 「今日で練習は終わりだ!ここまでついてきてくれてありがとう。明日っからが本番だ、よろしくな!」 「はい!」 相手が無名校であろうと強豪であろうと桐青の野球部には関係なかった。相手が誰であれ全力をつくすほかない。それは今の三年生が一昨年の一回戦負けで痛いほど感じたものであり、その話をきちんと受け止めている今の二年も三年も"夏の怖さ"をよく理解していた。明日の試合は全てレギュラーで挑む。主将の声の後に監督からの言葉があり、部員たちは解散となった。 「準太、確かちゃんは西浦に行ったんだったな。」 「…逸子はそう言ってたスけど。」 「久しぶりの対面が敵としてか。」 「まぁ、負けるつもりは毛頭ないっス。」 ニッと笑う高瀬の頭を河合はポンポンとたたいた。二人の脳裏に楽しそうな表情でバットを構え、高瀬の球に恐れもせずにスイングするの姿が浮かんだ。高瀬は頬をかくと、帽子を少し深く被った。それを見た河合はまた高瀬の頭をたたいた。未だ自分の気持ちの正体をよく分かっていない彼を目を細めて見ると、小さく笑った。 「逸子もだけど、何での話題出して笑うんスか!」 「いや…別に…(未だ無自覚なのが面白い)」 "お邪魔しすぎてごめんなさい、有難う御座いました"学校見学の日にやってきたは誰もかれもの視線を釘付けにした。その外見からは想像もできないバッティングセンス。中学のときの先輩後輩の関係にあり、高瀬の従姉である逸子(高瀬逸子)に届いたメールで、桐青ではなくて西浦に隆也と行くことにした、と来たと知ったときの高瀬のテンションの低さは今までになかった。河合はそれを思い出してまた小さく、クック、と笑ってしまった。それに高瀬がよく思うわけがない。ジトリと睨まれ、河合は焦ったように謝った。 「の言う"隆也"をやっと見れるな。」 「…別に見たくないスけど。」 「(こーゆーとこ、子どもっぽいよな準太って)」 |