
三番、セカンドの島崎サンは三橋の球を思い切り打ったが、それは空へと上がり、ファウルになる。ライトにいる花井は打球を追いかけ、思い切り飛んだ!後ろ向きのナイスキャッチ!あたしは百枝監督とハイタッチをする。さすがはキャプテン花井。これで三橋の投球も六球というハイスピードで終わってしまった。さすが、ナイピ!ただ、三橋の顔が異様に赤いのは気のせいかな?ベンチに戻ってきたときに何気なくオデコに触れて見る(三橋は思い切りビックリしていたけど)熱…あるよね、これ。微熱だろうけど。 「雨、降ってきたなぁ。」 攻守交替、先頭打者は花井。ストレートの球を花井はセンターにきっちりと返した(センター返しは打撃の基本デス)一回のように先頭打者が出る。花井に続くのが沖だ。それにしても、やけにけん制が多いような気がする。たぶん、準サンの緊張がまだ解けていないからだ。そのとき、田島がタイムを要求した。花井の靴ひもがとけてしまったらしい。え、それだけ(じゃないよね、密かに内緒話してるみたいだし)何だろう、と思っていたときだった。リーリーリー、のあとに、ごぉ!と田島は言ったんだ。単独スチール!(走者が盗塁すること) 「あっれぇ、田島の合図って…モーションと同時…。」 「まさか、モーションを盗んだわけが…。」 疑問はあるものの、何はともあれ、沖がフォアボールで出塁で走者は二人。次の打者は水谷だ。 「スライダー。」 「そうね、スライダーね。」 監督はそれを水谷に伝える。水谷は予想通りにきたスライダーをライト方面に打った!抜ける!って思ってたとき、セカンドの島崎サンが何とも絶妙なキャッチを披露してしまった。スライディングキャッチ、そしてすぐさま一塁へ(うわ、レベル高い!)一塁に戻るのが少し遅れた沖は相手側のナイスプレーのせいでアウト、水谷もアウトだから、ダブルプレーだ。惜しい!水谷はトボトボと帰ってくる。けど、水谷のはナイバッチだ、あれだけできたら充分だよ。 「ナイバッチだよ、水谷。」 「う、ー。」バチコンッ 「あ、悪ぃ、ミットが当たった。」 隆也のミットがあたしに飛びついてきた水谷の頭にジャストヒットしてしまった(え、もしかして今のってワザと?)隆也、遊んでるように見えたから怒ってんのかなーって水谷に言ってしまったら、水谷は、違う意味で怒ってんだよ、って言った。違う意味ってなんだろう?まぁ、そーこーしている間に三橋が打って出塁していた。でもね、あれだけバッティング教えたのに、もうちょっと…うーん、やっぱり教え方が悪いのかもしれない。でも、コースはよかった!次の打者は隆也だ。隆也は今回は打順後ろだけど、充分打力はあるんだよ。 「頑張れ隆也!」 隆也はこっちを向かなかったけど、バットをあげて応えてくれた。準サンがボールを握り、構える。今の状態の準サンなら、隆也は打てる。一塁、三塁で真ん中が空いてるから、コースも考え易い。だけど、そんなとき。 「みはしひー!」 なんと、出すぎていた三橋が挟まれてしまっていたんだ!思わず奇声に近い声をあげてしまったが、それは仕方がないとして自分でも納得させておきましょ。三橋は一塁と二塁を行ったり来たりしている…そうだ!この間に花井が。どうせアウトになってしまうような危機なら、チャレンジするしかない。そんな思いが通じたのか、花井はホームベースに向かって走り始めた。一か八か、運、としか言いようがない。 「ホームイン!」 審判の声が響いた。三橋に対してのアウトと花井のホームイン、早かったのは紙一重でホームインだった。つまり、一点先取したってこと!先取点に活気付く西浦応援団。雨の中、高らかに太鼓の音が響いた。あたしは近くにいた水谷と両手をとって喜び合った(戻ってきた隆也にまた水谷はたたかれていたけど、なぜだろう?)とりあえずは、一点先取!桐青相手に。まだまだうちは突っ走れるんじゃないかな! ----- 一点先取されたことで、高瀬の不快な熱は急速に冷めていった。自分が緊張していたことを、やっと自覚したようだ。彼の背中を桐青の捕手である河合がポンとたたいた。彼は高瀬にどう声をかけようかと少し考えているようだったが、意外にも、聞こえてきたのは高瀬の笑い声だったりする。さきほどまで堅い表情をしていた高瀬は、グローブで隠しながらもおかしそうに笑っているのだ。 「スンマセン、今のランナー、スゲー顔して逃げてて。」 「笑ってんのかよ。」 「それに、みはしひーってが…やべツボ入った。」 「点取られて力抜けたか?」 河合の言葉に高瀬はニッと口の端をあげて顔をあげた。どうやら緊張は完全にとれたらしい。ちなみに、笑いもどうやらおさまったようだ。そんな彼の頭を誰かがなにか硬いものでたたいた。誰がたたいたのかは、高瀬も分かっているようで、少しムッとしながらも振り向く。そこには、桐青の制服を着たマネージャーであり、彼の従姉の逸子がいた。 「ばぁか、やっと起きたのね準。」 「うっせー。」 「まぁ、さっきので悩みがもうひとつ解決したでしょ。」 「え?」 他に何に悩んでいたというんだろうか。高瀬は河合と顔を見合わせた。逸子は呆れたように溜息をつき、電光掲示板を指差した。いったいなんだろう、と思いつつも二人はそっちを見る。だが、分からない。逸子はスコアシート(を挟んだボード)で高瀬の頭をもう一回たたいた。 「の言ってた隆也の正体、分かったでしょ。」 「え?隆也の正体?」 「…あー、なるほど!」 先に分かったのは河合の方だったらしい。河合は納得したのか、二度ほど頷いた。そして、高瀬に電光掲示板をもう一度見るように言った。高瀬はそれを見て、さっきのの声を思い出す(みはしーじゃない方の)"頑張れ隆也!"と彼女は言ったのだ。そして、ウグイス嬢の声は、九番キャッチャー阿部くん。 「阿部隆也!」 「つまりは、ちゃんの言ってた隆也っていうのは。」 「そう、の双子のお兄さんよ。」 何だか妙にスッキリしたのが自分で分かった。高瀬は、そうかそうか、と呟くように言うと、またニッと笑った。だが、いつまでも試合外のことを考えているわけにもいかず、彼は自分のモーションが盗まれたのではないかと河合に言う。河合は信じられないといった表情を浮かべたが、その可能性がないとも言えないのだった。ハッキリとした答えは出ず、けっきょく桐青の攻撃へと変わったのだった。 「凄い、三橋!」 再びマウンドにのぼった三橋は四番、五番、六番をおさえて無得点のままその回を終わらせる。彼は今までになく調子が良いらしい。それを隆也もも、監督である百枝も分かっている。だが、攻守交替の後、高瀬がマウンドにのぼる。彼の表情がさっきまでと違うことに、いち早くは気がついた。投げる途中で笑みさえも浮かべている。打席に立っている隆也は、けっきょくバットに触れさせることもできずにその打席が終わってしまった。 「隆也。」 「高瀬の奴、調子が戻ったみたいだな。」 「そうだね、顔が戻ってる、ありゃー。」 「(その割に嬉しそうだな、このバッティングバカめ)」 |