
桐青側が気合いを入れ直してきた。準サンは調子を取り戻してきた(ぜひとも打たせてもらいたい投球!)だけどこっちも引いてなんかいない。調子を取り戻した準サンの球を、みんな打ち返してる。下位打者にはちょっと難しいこともあるけど、それでも塁に果敢に出てる。四回の裏、桐青の攻撃をなんとか防ぐことができて、1−0のまま。そして五回の表、三橋へのデッドボール(雨のせいで指が上手く抜けなかったみたい)隆也のナイバッチ、田島の掛け声と栄口のナイバントで三橋がホームに帰ってきて二点目を取った。だけど、試合はそのまんまじゃ終わらない。 「(向こう攻め方、変えてきたなぁ)」 間がある度に桐青の監督サンがいろいろと選手の人たちに言ってみるたいだから、分かってきたことはあるんだろう。強豪ということもあっていろいろと把握しやすかった桐青と比べて、うち、西浦はノーデータに違いない(うちをマークするところがあれば、そうとう用心深いところとか、変わり者に違いない)五回の裏、ついに桐青は一点を取った。2−1でまだ西浦が勝っていることに違いはないけれど、向こうも何か変わってる。 「三橋、大丈夫?」 戻ってくると同時に、三橋が鼻血を出していることに気がついた。今日は風があまりないからのぼせちゃったんだ。それに気がついた隆也が呆然としていたから(場違いだから言わなかったけど、その顔、写真に撮りたかった…って言わなかったけど、なぜだか隆也にゲンコツをくらわされた!)五回が終わったところだったので、タイミングもよくグラウンド整備が入る。休める時間はけっこうあるので、鼻血はその間におさまると思うけど。三橋、大丈夫ー? 「。」 「うぃー?」 横になっている三橋をウチワであおいでいたら、後ろから(たぶん声は)田島が名前を呼んだ。振り向いてみたらやっぱり田島だった。ここまでの田島の成績は、三振とヒット。田島の割に控えめ…っていうのは、やっぱり準サンがイイ投手だからかな。チョイチョイ、って呼ばれたのでウチワをとりあえずは隆也に渡してそっちへ移動する。田島が真顔をこっちに向けてるのはなんだか怖いぞー(え、空気読めって?) 「は、さ、シンカーをさ。」 「打ったけど、あの打ち方じゃ塁に出れないって。」 言ったよ?と思いながらも田島はまだ真顔なので言わないでおいた。あの他にも方法がないことはないけど、手荒な方法であることに間違いはない。この試合で終わりならまだしも、桐青に勝ったらまだ次にも試合はあるし、とあたしは考える。 「いーから、どうやって打ったんだよ?」 「…後ろから踏み込んで球に突っ込んだんだよ。」 あとで向こうの捕手の人(確か、河合サン?)から、ケガするよ、ってすごい忠告されたけど。準サンのシンカーは思っているよりも逃げてしまうから、自分が思っているよりも球を追いかけなければ打ち返せないんだ。でもあの打ち方じゃ走ることができなかったし(あたしは、ちょっと自画自賛かなぁって思うけど、反射神経とかはイイ方だと思うんだけど) 「勢い殺すバントみたいに走らせることもできないし。」 難しいんだよね、と続けると、田島は腕を組んだ。あぁ、歯痒い。実際にシンカーを打ってるんだからもっともっと的確なアドバイスをあげれたらいいのに。そう思うけど、そう簡単にもいかないのが、対強豪ってわけで。あたしは田島に、ごめんね、って謝ると、田島は顔をあげてパッと笑ってあたしの頭を撫でた(グシャグシャって感じだったけど)そのままピースサインを見せると、いつものように満面の笑みを浮かべる。 「俺が打ってやるぜ、ゲンミツに!」 「おぉー、頑張れ田島!」 ----- 雨は強くなった。そのせいで相手にも嫌な状況はある。だけど、その雨のせいで三橋は珍しくもワイルドピッチをしてしまい、桐青は逆転の一点をいれた。隆也もそれに反応はしてたんだ。だけどとっさのことだし、まさか三橋がワイルドピッチなんてあたしだって、監督だって思ってなかった。それから隆也がタイムをとって話をしている(選手じゃないから駆け寄れないのがモドカシイ!)あたしは手をギュッて握って隆也たちを見ていたら、監督が頭をポンと優しくたたいた(モドカシイなんて気持ちはどっかいっちゃった) 「トライッ!」 島崎サンの三振で三橋の三振数は11個になった。でも、雨は思ったよりもひどくなっていて、さっきバットもすっ飛んでいってしまったから、もしかしたら続行不可、なんて言っちゃう審判の人がでてきてしまうかもしれない。あたしは必死になってお祈りみたいなのをしてみる(心の中で)ここまできたら最後までやらせてほしい。最後までやって負けてしまうなら、悔しいけれどまた頑張るしかない。でも、雨天コールドなんてのはみんな納得できないよ! 「(あれ、三橋と隆也がいない)」 いなくなった二人を追いかけて、あたしは中に入る。三橋はさっきよりもびしょ濡れで、隆也が三橋の手を持ってた(たぶん、握力でも測ってたんだろうなぁ、三橋すごい疲労感あるから)そんなとき、知らない女の子が現れた。その子は"レンレン"と誰かのことを呼んだ。三橋はその子を"ルリ"と呼んだ(そっか、三橋の下の名前は廉だった)みつあみの可愛い子だ。 「叶は勝ったよ!叶は三人でおさえて三星は勝ったって!」 三星って、群馬県の三星学園だよね、合宿のときに練習試合をした。確か、投手は叶だったもんね。その後ルリちゃんっていう子は関係者の人に見つかって一目散に走り去ってしまったけれど、三橋の表情は戻っていた。いつの間にか田島たちが来ていて、三橋に大笑いしていた(レンレンってあだ名のことを、可愛いと思うけどね)でも、三橋はいい顔になった。そうだね、三橋にとって、叶は特別だもんね。叶が勝ったんなら、負けてなんかいられないよね!あたしは笑って三橋に手を差し出した。握ってみて、と。 「いたたたっ!」 「バカ、何やってんだよ!」 慌てたような隆也に手を引っ張られた。三橋が慌てて謝っているけれど、三橋の握力は戻ってることのがイイことだから、痛さを堪えて笑ってみせる(隆也にはバカとまた言われて頭を小突かれたけど) 「試合再開すんぞ!すぐベンチ戻れ!」 花井に言われてみんなは大きく返事をした。試合再開…どうやらカミサマってやつはあたしたちを見捨ててはないみたい。それなら、やれるとこまでやってしまえばいい!あたしは手をグーに握って隆也に向けた。隆也はニッと笑ってあたしの拳に拳を軽くぶつける。それを見た田島たちもあたしの拳に軽くぶつけてきた。 「見てろよ!」 「ぜってー勝ちをとってきてやっからな!」 |