2.













なぜか漫才のような会話が繰り広げられ、驚愕の事実を聞き、周囲が三橋ではなく彼らを見ていたが、どうにか話を元に戻して、そしてやっとのことで三橋から言葉が発せられて、そちらに視線を戻したのだった。



「投げても、意味ないから。」

「何で。」

「球、遅いから。」

「みんな的外れな期待はしてないと思うけど。」



三橋は群馬県の三星学園野球部の補欠ではなく、レギュラーだったらしい。県外だから隆也もも知らなかった。色々と周囲が騒ぐ中、花井が声を荒げた。ヒイキでエースピッチャーをやっていたという彼の告白に周囲は耳を傾けた。そのときばかりは空気を読んだのか、も黙って聞いていた。



「俺のせいで、みんな野球を楽しめなかった、です。俺のせいで、みんな、野球を嫌いになっちゃって…。」

「お前、マジでウザイ。」



容赦ない言葉に三橋は地面に伏してしまった。直球な発言には苦笑を浮かべる。確かに、俺のせいで、俺のせいで、と続ける彼はこれでもかというほど卑屈である。だが、隆也が嫌がってるわけでないことは、には分かっていた。隆也は続ける。



「マウンド譲りたくないって投手にとっては長所だよ。」

「ちょう、しょ?」

「ま、嫌な奴なのは確かだ。」



上げて落とすような言葉に三橋はまた地面に伏してしまった。今度は堪えきれずにがケラケラと笑い出してしまった。それに三橋が目をパチパチさせながら彼女を見た。彼女は相変わらずの笑顔で何も言わずにポンポンと背中をたたいた。そんな彼女の頭を隆也が小突くと、少しだけ笑った。



「でも、投手としてなら、俺は好きだよ。」

「あたしもそんな人がいても良いと思うー。」



は手を差し出して、三橋と握手をした。決して自分を咎<とが>めない彼らを見て、三橋はゆっくりと立ち上がった。どうやら、投球を試みてみるらしい。それでも、先に謝っておくあたり、やっぱり、少々卑屈気味ではある。



「(投手やってる奴って癖あるけど、こいつは相当変だぜ)」



三橋はマウンドに立った。久しぶりのマウンドの感覚に目を瞑って、静かに息を吸い込んだ。嫌だと思っていたのに、この感覚はとても気持ちのよいものだった。



「春休み中は、グラウンド整備で終わったんだ。ほら、外野まで手がまわってないでしょ。」

「ふ、二人でやったの?」

「いや、いれて三人と、監督とか。」



自分の名前が呼ばれたことに気づいて、は元気よく返事をして手を大きく振った。その満面の笑みに三橋はちょっと顔を逸らして、それでも小さく手を振り返してみた。そんな彼女に隆也はシッシ、と手を振ってやると彼女は一瞬ムッとしてイーッと歯を見せてみたが、その後また笑った。



「まぁ、は途中歌いながらやってたりしたから、余計な仕事を増やしたりもしたけどな。」

「あ、はは…。」

「マウンドはどんな投手がくんのかなーとか考えながら、と土盛ったわけ…俺らの作ったマウンドはどーよ。」



彼の言葉に、三橋はまだ少し戸惑いながらも少し笑った。投球が始まる。確かに彼自身が言うように球速は遅い。それでも、感じるものが隆也にはあった。そして、その微妙な感じに見ていたも気づいた。やはり長年隆也の捕手を見てきただけはあるようだ。彼女は繰り返される投球を見ながら、胸がドキドキしているのを自覚した。



「(う、打ちたい、打ちたい!)」



驚くことに、三橋は球種を四つも持っていた。それを聞いたはますます目を輝かせながら(隆也が三橋に球種を聞いたときのように)ウズウズさせていた。だが、隆也が声をかけたのは、花井、だったりする。彼は花井に三打席勝負を持ちかけたのだった。立候補した田島を断り、乗り気のない花井にどうして声をかけたのか、そう思っただったが、あぁナルホド!と手を打ってにんまりと笑った。つまりは、この三打席勝負に三橋を勝たせて、三橋を持ち上げようというのだ。さすがに名門チームの四番を完全に討ち取るのは難しい。



「あのなぁ、俺まだ勝負受けてないんだけど。」

「あ、もしかして花井、負けるのが怖い?」



ヒョッコリと花井の背後から顔をのぞけてが言った。無邪気に言ったのだが、言葉が言葉なだけに花井の額に青筋が浮かんだ。理由があるのならば、何としてでも花井に勝負を受けさせなければいけない。アッサリと安い挑発に乗った彼はバットを受け取ると気合いの入った素振りを始めた。そんな彼を見ては楽しそうに笑うと、隆也が彼女に、よくやった、とサインを送った。



「さてと、それじゃ内野だけ入ってくれる?」

「いいの?見た感じデカいの打っちゃうよ?」

「デカいの打てるようならやめないでって頼むんだけどね。」



挑発は妹よりも兄の方が上手なようだ。何事もなかったように花井に背を向ける隆也を見ては可笑しそうに笑った。実のところ、自分が打ちたくて打ちたくて仕方がなかったが、どうやら隆也が許可してくれそうにもない。は百枝らのいるベンチの方へ向かった。彼女が百枝の愛犬を抱っこする中、運命を決める、というのは大袈裟ではあるが、三打席勝負が始まったのである。



「どう見る、ちゃん。」

「隆也がついてたら問題ありませーん。」

























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三打席勝負、結果はの思っていた通り、三橋&隆也バッテリーの勝利だった。最後の球の微妙な変化に花井は気づいて、三橋にズンズンと近付くといきなり胸倉を掴んだ。なぜ遅い球が浮くのか、と。



「あれは三橋の真っ直ぐだよ。」

「真っ直ぐだって、あれストレートじゃねぇだろ!」

「三橋の持ち球にストレートはないんだ。」



隆也の言葉に三橋はショックを受けているようだった。それはそうだ、ストレートを持たない投手なんてそうそういるもんではない。百枝の愛犬を抱っこしていただったが、犬をゆっくりと下ろすと、隆也たちの方へと歩いて行った。ベンチからでも三橋のボールの違和感は何となく分かった。



「ストレートってのは、変化球なんだよ。」

「ストレートはボールに綺麗なバックスピンをかけて投げるの、だから列記とした変化球なんだよ。」



隆也の言葉の後に、がニッと笑いながら言った。



「花井上手いから、三橋の球に気づいたんだね。」

「うっ。」



突然褒められたからか、花井は一歩後退してしまった。目の前で無邪気に笑うは自分のせいでたじろいでいるとは思っていない。気にせずに花井の背中をパシパシとたたいている。花井は照れているためか少し顔を赤くしていたが、夕日のおかげでそれはみんなにはバレてはいなかった。一癖のあるストレートに見せた真っ直ぐ、そしてストライクゾーンを九分割して日々練習した賜物の超人並みのコントロール能力。



「三橋、お前は投手として十分魅力的だと思うよ。」



隆也の言葉に三橋は思わず息を呑んだ。も彼に賛同というように二度ほど頷いた。彼女自身、彼の投げた球を打ってみたいと思ったのだから。



「あとは打たせた球を捕ってくれる野手と。」

「一点いれてくれる打者がいれば。」

「「甲子園に行ける!」」



色々と問題はありそうで、凸凹なチームになりそうな予感はするけれど、メンバーは揃った。はチームメイトにはなれないながらもそれを心から喜んだ。甲子園に行ける、甲子園を目指せる。彼女は少し顔を俯け、両手をぎゅぅっと握って、それから思い切り飛び上がった。ガッと何かに当たった音と感覚がした。ありゃ、と首を傾げて隣を見ると、自分の兄がアゴをおさえて悶えていた。



「あ、ごめん。」

「…てめぇ…。」

「痛いの痛いの飛んでいけー、なぁんて…?」

「こら、待てー!」











行くぞ、甲子園!
みんなで行こうよ、絶対に、甲子園に!











後書

夢主の意味があまりありません。
何だかんだで兄妹はツーカーのつもり。
夢主は打つのが大好きです。
だから普段バッティングセンターとか行ってます。
家では毎日阿部くんとキャッチボールしてます。
ってことで、野球上手です。
これからそれを出したいと思ってます。