5.













三橋を追いかけて三星の部室棟の方へ走った。時間ロスが痛いけど、多分、大事にはならないようには相手もするだろう。それでもやっぱり三橋が心配。今日は昨日や一昨日とも比べ物にならないくらいに緊張してる(って、いうか、キョドってる?)ちょっと道に迷いそうになりながらもあたしはようやく三橋たちがいるところに辿り着いた。三星の人はいない、接触後かな。その代わりに隆也が三橋の前にしゃがんでいた。腕を折る…って何?



「畠くんは、か、叶くんに、投げさせようとして…。」



三橋は泣きじゃくりながら喋る。叶っていうのが三橋に正投手奪われてたっていう人かぁ。それで、その畠って人は叶に投手させてあげたくて三橋を苛めてたってわけですね。でも、腕を折るとか、足を折るとか、そういうことを言うのってアンフェア<不公平>だと思うんだけど。そう思いながらあたしはその場にしゃがんだ。とりあえずは、隆也に任せてみよう。言葉足らずでちょっと不器用だから、何かヤバそうになったらさり気なく出て…ん、さり気なくを演出できるかは自信ないけど。



「(このままじゃ三橋まともに投げられないし)」



そう思っていたら、突然隆也が手を伸ばして三橋の手をとった。そして腕を少し引っ張る。どうしたんだろう、隆也がこういう行動をとるなんて思いもしなかった。



「大丈夫、お前はいい投手だよ。」



おぉぉ、どうしちゃったの隆也!普段滅多にそういうこと言ったり(褒める)しないのに。そう思いながらあたしは今隠れている立場じゃなければ拍手を送りたい気分だった。隆也はちゃんと優しいし、人のことだって考えられる。だけど、不器用で、口が悪かったりする(言葉を選ばない)から、知らない人には"阿部くんって怖くない?"なんて聞かれたりするけど。あたしは黙ってそのまま聞く体勢。が。



う、嘘だぁー。

いい投手だよ!

嘘ですー!

いい投手だって!

嘘だぁぁぁ!



…まったくもって伝わらないっと。更に号泣し始めてしまった三橋にあたしは思わず笑いが込み上げそうになってしまい、慌てて口をおさえた(隆也の表情が容易に想像できる!)何て漫才みたいなやり取りなんだ!隆也、やったじゃん、あたしと以外でも漫才ができるよ!(なんか違うけど…)泣き続ける三橋。隆也は突然三橋の手を開き始めた。あ、もしかして隆也って初めて三橋の手を触った?握手したときに気づいたけど、三橋の手っていっぱいタコがあるんだ。



「…お前は、いい投手だよ…。」



言い方がさっきとは変わった。それに、空気も変わった気がした。あたしはとりあえず、口をおさえていた手を放して、また神経をそっちに集中させた。



「投手としてじゃなくても、俺はお前が好きだよ。」

「…え。」

「だってお前、頑張ってんだもん!」



このとき、隆也は初めて"三橋"という人を認めたんだと思う。今まで三橋の世話をやいていたり気にしていたりしたのは、監督の言葉だったり、西浦の投手にするためだったりしたけど。あたしは思わず口元が緩んだ。アレがあって、隆也は少し歪んでしまっていた。投手なんて大嫌いだ、っていつも言ってたし、一時期野球をやめようか、なんて言ってたときは本当に心配になった。それでも野球をやめなくて、今年から硬式野球部になった西浦に来たのは、もしかしなくても三橋とバッテリーを組むためだったんじゃないのかなぁ。さぁーっと気持ちいい風が吹いた。春の、風。



「お、俺、頑張ってるって、思う?」

「思う。」

「お、俺、ピッチャー好きなんだ。」

「分かるよ。」

「俺、か、ちたいっ!」

「勝てるよ!」



よかった。いい方向にいってる。途中で道を逸れちゃうんじゃないかなぁって思ったこともあったけど、ちゃんと逸れずに歩けてる。よし、あたしは何も聞かなかったことにして、先に帰っていよう!そう思って静かに足音も物音もたてないように中腰のまま背を向ける。



「お、俺も阿部くんが好きだ!」

「…っく、あははっ!」



しまった、思わず笑ってしまった!隆也は早々とあたしの存在に気づいて苦い顔をしてこっちを見た(だって、だって、めちゃくちゃ青春モードでいいお話なのに、三橋、可笑しすぎる!)そのまま隠れたまま、どうにか誤魔化そうと猫の鳴き真似をしてみるけれど、近付いてくる足音はどうにもできなかった。うーん、残念!背後に仁王立ち(たぶん)しているであろう隆也に首根っこを引っ張られて立たされてしまった。



「どっから聞いてた?」

「えーっと、畠くんは叶くんに…の辺り?」

「ほとんど最初からじゃねぇか!」



違うもん、違うもん、心配だったから来ただけだもん。やましい気持ちなんかひっとかけらもないもん!そう目で訴えてみたが、隆也のデコピンはかなりいい音をたてて決まった(い、痛い…)三橋はあたしがいたことに驚いているようだったが、さっきの余韻からかまだ目を輝かせていた。そんな三橋にあたしは近付き、背中をポンポンとたたいた。



「あたしも頑張る三橋が大好きだぁ。」

「ぅえ、あ、え、えぇー!」



なぜか顔を真っ赤にする三橋。隆也は今度はあたしにチョップをかますと(痛くはなかったけど)未だしゃがみこんでいる三橋の手をとって立ち上がらせる。



「さぁ、行こう。試合前に各打者の特徴を教えてくれ!」

「はいぃ!」

「(三橋って実はすげー簡単な奴かも)」

「(簡単な奴だぁ)」



あたしらはグラウンドに急いで戻ることにした。あたしも準備途中で走って行ってしまったし(って、いってもほとんど終わってるけど)監督たちのところへ戻る間、トンボを抱えた背の高い人が話しかけてきた。とりあえず、隆也らと一緒に、ちわっす、って返してみた。



「自分ら、女子おってえぇなぁ。」

「そうですかー?」

「こいつ、まともな女子じゃないんで。」

「って、どういう意味だよー隆也!」



クールに隆也に流されてしまった。そのまま足をとめずに走って通り過ぎていった。に、しても今の人大きかったなぁ。180cmの後半ってところか…。大阪弁だった。



「知ってる奴か?」

「知らない。」



隆也の質問に三橋はアッサリと答えた。そう、だよね。だって三橋が少しもビクビクせず挨拶返しちゃったもんね、知ってる人のわけがない。どうやら三星は野球推薦があるらしく、そこまで遠いところからは来るわけじゃないけれど、外部から来ないわけでもないらしい。つまり、中学校の頃のメンバー以外の人もいるわけだ。



「篠岡、メンバー表見せて。」

「はい。」

「…そういえば、今年は一人凄いのが入るとか。」



四、六、七、八番は三橋も知らないらしい。つまりは外部から入ってきた人ってことなんだろう(メンバーが少なくなさそうだから初心者ってことは多分ないだろうし)残りは元チームメイトらしく、三橋はちょっと表情を暗くしたけれど、大丈夫だとは思う。そのとき、誰かが三橋の名前を呼んだ。そして…。



「フォークだ!」



この人が三橋の言っていた叶、って人に違いない。投げた球は上手い具合に落下して捕手のミットにおさまった。上手いや、確かに三橋がこだわることはある、なかなか!三橋は叶の投げたフォークにまた表情を暗くしてしまったが、隆也は、大丈夫って言って三橋の肩をたたいた。



、あのボール打てるだろ?」

「…うん、打ってみないと分からないけど打てると思うよ。」

「ってことだ、田島も打てるだろ?」

「俺はどんな球でも打つよ、一試合やって打てなかった球、ないもんね!」



さすがに現役野球部の田島と比べられると胸張って、打てる、とは言えない、かもしれないけれど。そこらの男の子よりか打力ならあるつもり。どっちかっていうと、苦手なのは変化球とかよりも速くて重たい球(体格的にも力の足りなさからも上手くバットを振りきれないから、でも打つけど!)打てるって言ったあたしをみんなが呆然としたような表情で見ている。え、何で?



…お前、マジ打てんの?」

「おぅおおマジ、実際打ってみせてあげたいくらい。」

「こいつは打者しか興味ない分、打つのは上手いよ。」

「マジで!、今度勝負しようぜ!」

「…どんな勝負すんだよ、田島。」

























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「勝ってエースを手に入れるぞぉ!」

「「「オォー!」」」



いよいよ試合が始まる。初陣、それでいて、三橋にとっては因縁を断ち切る大事な試合。そして、隆也にとっては、初めての、誰かのための試合。円陣にだけ参加させてもらい、あたしはスコアシートを手にした。ちなみに千代はあたしがいない間に三星からウグイス嬢をお願いされたらしい(あー、隆也たちのところに行っててよかったぁ!)さーて、どんな試合になるでしょうか!











挑め、初試合!
勝って三橋を本当の西浦エースにするぞー!











後書

言葉だけで夢主の若干説明を。
打たせてあげたいけど、その機会がない。
ってか、お前頑張ってんだもん、が良い良い!
このシーンで阿部くんの好印象度がアップ。
やっぱり中学あがりたての男の子って感じがして、
初々しくて、青春ぽくて良いです。
いいお話だなぁ、おお振り!