6.













「いいぞー、もう一球!」



三星の捕手の声が聞こえる。投球練習をしているあちらのバッテリー。攻撃は三星、守りは西浦から始まる。三橋はあっちを見て、何やら考えているようだった(まぁ、何を考えているのかなんてあまり考えなくても分かるような気がするけど)そんなとき、隆也に肩をたたかれた。どうやら、打順が三番である隆也の代わりに、三橋とキャッチボールをしておいてくれってことらしい(普通はそんなのマネジであるあたしがやるわけないけど、別に正式試合じゃないし、まぁいいか)あたしは快くそれを受け入れると、マイグローブを手に持った。いつも持っているのだ。



「三橋。」

「は、はいっ。」

「俺すぐ打順だからキャッチボール、とやってくれ。」

「え、あ、阿部さんと!」

でいーよー、よろしくねー。」

「よっ、よろしく!」



何だかカチコチしているようで面白いけれど、そのままにしておくわけにもいかないので、あたしはグローブを右手にはめて、さぁ来い、と構えた(キャッチボールなので立ったまま)実は三橋とキャッチボールをするのは初めてだ。戸惑いつつであったけど、三橋はあたしにボールを投げた。



「(とやれば、少しは緊張も解れるだろう)」



隆也の視線には背中を向けていたから気づかなかったけど、背後の方では何か騒いでいるようだったけど、まぁいいや。あたしは楽しくなってきて、えぃ、とか声を出して投げた。そんなあたしを見て、三橋は少し顔の表情を柔らかくした。少しでも三橋の緊張が解れれば、と思ってできるだけ楽しげな雰囲気を出そうとしてみる。きっと隆也もこれを狙ったはずだから(でもなぁ、試合始まったら今以上に余裕なくなっちゃうよ、大丈夫ー三橋?)



「あ、阿部さん。」

。」

、さん。」

でいいって。」

「え、あ……。」

「ん?」

「お、俺、頑張る!」

「…うん!」



頑張れ、三橋。頑張れ、隆也。頑張れ、みんな!

























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試合開始。まずはセカンドの栄口が先頭バッター!相手投手の叶は、別段緊張したようすもなく、捕手のサインに頷き、ストレートを投げた。栄口は上手にそれをサードに送ったけれど、叶がとり、まずはワンアウト。次の沖もアウトをとられ、ツーアウト。打順、三。隆也の番になった。ツーアウト、ランナーはなし。それにしても中学時代は試合に一度も出ていないのに落ち着いている人だなぁ。隆也は三回素振りをして、バットを構えた。



「ストライーク!」



ストライクふたつ、ボールがひとつ…そして、フォーク!隆也のバットはそれに当たらず、スリーアウトで早々とチェンジになってしまった(でも、試合はこれからだ)見た感じからして、速度は120そこそこって感じ、フォークもそこまでガクンと落ちるようなものじゃあない、けど、けっこう難しいかもしれない。でも、四番の田島ならきっと打っちゃう、打てるよ。そう思いながらあたしは田島の背中をポンポンとたたいた。それに田島はキョトンとしていたけれど、分からないだろうながらもニッと笑った。



「みんな、いってらっしゃーい!」

「おぅ!」



西浦は守備配置についた。捕手はもちろん隆也、投手はもちろん三橋。三橋は隆也のサインに頷き、まずは全力投球をした。それは隆也がミットを構えている位置より右上に大きく外れた。思い切りなボールに間違いはないが、相手打者が勢いよく避けてバットを振ってしまったおかげでストライクをとれた!ナイピッ!だって隆也、もともとストライク狙いで全力投球させたんじゃないんだもん!一瞬戸惑った三橋に、隆也や栄口、田島らが声をかける。うわぁ、いいな、いいな、青春!三橋はそれによって戸惑いが少しなくなった気がする。



「ストライーク!」



あっという間にスリーアウト、チェンジ!攻撃が再び西浦にまわってきた。打者は四番の田島!"俺はどんな球でも打つよ"と自信満々に言ってたのは恐らく、嘘とか虚勢<きょせい>なんかじゃない。あたしはスコアを片手に田島にエールを送ると、田島は満面の笑みを浮かべてバッターボックスへと行った(あー、田島ってやっぱりなんか同じニオイがする!)田島は元気よく挨拶をしてボックスに入るとバットを構えた。まずは一球目、思い切りなストレート、だけど、田島は手を出さない。二球目もストライク。あれれ、田島どうしたの…?隆也が怪訝そうな顔をして田島を見ているのが分かった。



「打つ気ねぇのか。」

「…もしかしてさぁ。」

「んだよ。」



たぶんツーストライク、ワンボールからのフォークを待ってるんじゃ、って途中まで言ったときだった。田島はバットを握り直した。たぶんなんかじゃない、田島ってやっぱりフォークを待ってたんだ!そして少し下がった。立ち位置が普通よりも後ろ気味…だけど、あたしも同じことをするかなぁ、あ、いや、違う方法を試すかも。叶は捕手のサインに頷き、振りかぶって投げる!そして田島はそれを…。

カキィィィン!



「打ったぁ!」



奥まで響くような心地よい音がした!田島は小刻みにステップすると芯をおさえてそれを思い切り打ち返した。やった、やったぞ田島、カッコイイ!狙ったであろう、空間にボールは届いた。ツーベースヒット!栄口らがそれを見て何やら話し合ってる。掛け声、のようだけど。あたしはそれを見て堪えきれずスコアボードを片手にそこに仲間入り。せーのー!



「「「ナイバッチー!」」」



次の打者は花井だ。花井は中学の頃、間違いなく四番だけど、それは硬式じゃなくて軟式野球の話。叶ほどのフォークを芯でおさえろなんてちょっと難しい話だと思う。だからこそ、監督は花井にバントの指示は出さなかった。あたしは、花井ー!と声をかけると、行けー!と腕を振り上げた。花井は腕を振り上げて応えるとバットを構える。まずはストレート。それに手を出さずにワンストライク、そして、ツーストライク。そしてワンボール…花井、花井、もしかして君もフォーク待ってる?とか思ってたら、花井のバットが空気をきった。アウト!



「フォークを待ったのは何で?」

「打てると、思って…。」

「ならいいのよ。」



監督の声に花井は少し驚いているようだった。別のことを言われると思ってたのかもしれない。



「どうすれば打てるのか、次の打席までに考えるんだよ。」

「はい!」

「それからみんなも聞いて!」

「はいっ!」

「田島くんは飛びぬけた野球センスを持ってる。でもね、彼が持ってないものがあるの。」



その言葉にみんなは驚いていた。あんなフォークを見ただけですぐに打てちゃう田島にはみんなよりも凄い技量がある。だけど、そんな田島にはないもの。少なくとも、ここにいる人たちの中で一番足りてないものがある。あたしは分かるよ、だって、あたしも同じようなもんだから(って、いうか、あたしの方が足りてないし)



「大きな体格でーす。」



あたしが答えると監督は、その通り、と言った。田島は確か164cmだったはず…。軟式ならまだしも、硬式では田島の体格では滅多なことじゃホームランは狙えないだろう(だって球が重たいじゃない)体格で力を補えないもん。隆也はあたしの言葉に、なるほど、と頷いた。あたしだって打つの好きだけど、滅多なことじゃなきゃホームランは狙えない。バッティングセンターでも一定の速度を越えると打ててスリーベースヒットまで。球が重たいとそれを跳ね返そうとする力が負けてしまい、距離は思ったよりも伸びないんだ。



「ホームランを打てないってことは、彼一人じゃ点を取れないってことだよ、点をとるには貴方たちの力がいるの!このことを、よーく覚えといてちょうだい!」

「はい!」



攻守のチェンジ。みんなは再び守備に入る。何やら考えているような花井に、あたしはグローブを渡した。花井はあたしをじっと見ていたが、首を一、二回振った(どうやら自己完結したらしい)



「あのフォークの打ち方?」

「いーや、聞いてもたぶん打てねぇ、今の俺じゃな。」

「…うん、聞いても余計分かんなくなると思うよ。」

「え?」



あたし、バッティング教えるのは苦手なので。と、言うと花井は一瞬唖然としていたが、次の瞬間吹き出すように笑った。一度隆也にバッティングを教えてくれって言われたけれど、一生懸命教えたのに隆也は、もー二度と聞かねぇ、って言った!そりゃー、ちょっとアバウト過ぎたかなーとは思ったけど、こっちは一生懸命だったんだけど!むぅぅ。



「確かに、教えるの下手そうだお前!」

「ば、バッティング以外なら教えられるもん!」



花井は笑いながらあたしの頭をポンポンとたたくと、グローブをしっかりと左手にはめてベンチから出て行った。レガースをつけ直していた隆也がまだいたようで、あたしを見て、花井と同じようにポンポンと頭をたたいていった。ちょっと、待って。あたしってそんなに教えるの下手?その憐れみを込めたような頭ポンポンは何なんだよぉ!そんなこんながありながら、試合はサクサク進んでいくのでありました。











出塁、ナイバッチ!
試合はまだどっちが勝つとか分かりません、でも西浦勝つもん!











後書

原作に沿いすぎて夢なしでした。
どこを略そうかと悩みつつ。
もうちょっとキャラたちと遊ばせたいです。
とりあえず、次で三星編は終わりにします。
頑張って、終わらせます。
花井くんとの絡みにピンクはないけど、楽しかったです。
もうちょい阿部くんとお話してね夢主!