
試合はどんどん進んでいく。途中三星の四番(確か、織田っていったっけ)に鋭いファールを打たれて三橋もビックリしてたみたいだけど、すぐに立ち直った。うん、三橋、強くなった!問題であった相手捕手の畠も打ち取り、次の打者も。そのまま試合は無得点のままで四回に入った。この回までに何となく分かったこと。叶は三橋に対して何か特別なものがある、ような気がする。だってあの球でヘッドスライディングまでしちゃうなんて…(その後何だか揉めてるみたいだったし) 「…監督ー。」 「なぁにちゃん。」 「叶、疲れてません?」 息がきれてるように見える。初球から外したの初めてだし、もしそれが狙ったものじゃないとしたら?ヘッドスライディングしてやられちゃったのもあるかもしれないけど、それよりも精神的に…みたいな?そうこうしているうちにその回はフォアボールで一塁に沖が出塁できた。三番は隆也だ。監督の合図は…バント!隆也は初球を綺麗に転がした。ナイスバント!あたしはスコアボーロをぶんぶんと振りまわして大喜びをした、このままいけば点がとれるぞー! 「いてっ!」 「あ、ごめん水谷。」 「凶器振り回すなよなー。」 「ごめんごめん。」 正直、喜びで謝ってる意識はあんましなかったけど(水谷は呆れてるだけで怒ってなかったからいいや)三番の隆也が終わったから、次は…待ってました、田島!田島は元気よく声をあげると、バットを構えた。フォーク打っちゃってるから、たぶん、田島にフォークは来ないと思う。うん、ないない。再びスコアボードに記入していたら隆也が帰ってきた。 「お帰りー。」 「ただいま、ってお前、ちゃんとスコア書いてるか?」 「失礼な、抜け目はありません!」 「…さっきのやつ、字がよれてんだけど。」 あぁ、はしゃいでたから字が遊んじゃったんだね。と、言ったら頭をコツンと軽くたたかれた。お返しにとばかりにほっぺを引っ張ってみると思ったよりも力が入っていたみたいで、いてぇ!と隆也が声を荒げた。ごめんごめん。悪いと思ったのでほっぺを撫でてあげたら、今度は、撫でるな!って怒られた。なんだよーどっちだよー。水谷はそんなあたしらを見て呆れたような表情を浮かべている。 「お前ら、ほんっと仲いいよなー。」 真反対の答えにあたしらはまた顔を見合わせる。グラウンドから視線をずらしてしまっているあたしらを、ガチィン、というとてつもない衝撃が襲った(気づいたら隆也の頭とゴッツンコしてた!)おそるおそる背後を見上げると、そこには怖いくらいの笑顔を浮かべた監督がっ! 「仲いいのはいいけど、試合見ましょうねー。」 田島の打席が始まった。レフトとセンターが畠の掛け声で寄る。きっともう田島の打力はよぉく分かってるんだと思う。田島は田島でフォークにはもうこだわらないと思う(だって、あたしだったらもうこだわらないもん)叶は畠のサインに頷き、振りかぶった。 カキィィィン 「いっけー沖ぃ!」 田島はボールを引っ張り上手い具合にスペースが広いところにボールを送った。さすが田島!あたしはまたスコアボードを振りまわして喜び、ナイバッチーに参加した。あぁ野球ってやっぱり面白い!(あの心地よい音がたまらない!)沖がホームにかえってきて、一点をウチが先取した。四回の表、西浦高校一点先取です!しかも二塁に田島がいる。 「いっけー花井!」 一球目からのフォーク。花井は打つことができなかったが、捕手がボールを取り損ね、田島は三塁に走った。ランナーが三塁、そしてフォークの取り損ね、最低でもこの場でフォークはない。二球目のストレートを花井が打った。あげてしまったけど、飛距離が十分だ(田島、足速いし)と、いうわけで二点目をとった!ナイバッチ、ナイスラン!次の打順で叶は少し可笑しくなった。フォアボール連投。その後何か揉め事みたいなのがあったけど…そこから空気が変わった。って、いうか、三橋に打順がまわったとき思ったけど…三橋、見てらんないっ!あのスイングは、どうにかしてあげたいぃ(教えるの下手なの隆也のオスミツキなのに) 「(んー、この試合どうなるだろ)」 五回終了後、グラウンド整備を挟んで六回に突入、点数は未だ2−0のままで西浦が優位。先頭バッターの沖は三振だったけど、隆也がフォアボールで出塁、そして打順は田島にまわった。打つ気満々な田島、きっと打てばツーベースヒットくらいはいくと思ったけど、それが練習試合では珍しい敬遠だった。その後の花井はサード正面でツーアウト、そして三振でチェンジ。三橋の様子は相変わらず微妙。隆也が言っていたように、もしかしたら三橋は三星と西浦の間で気持ちがグラグラ揺れてるのかもしれない。うーん、まぁ、とにかく頑張ろー!って、いう間に…七回裏。 「ホームラン!」 水谷のフライのキャッチミスで一塁に出塁され(こらー水谷ー!)続く織田にはスリーベースヒットを打たれてしまった。そして、それに続く畠のホームラン!(何だか今までと違って全然迷いなく振りきったなぁ)一気に三点を入れられてしまい、2−3と逆転された。隆也ー大丈夫?何か声をかけようとも思ったけれど、一応試合なのでやめとく。それに、みんながいるから大丈夫だと思うし。あたしはスコアを書く手に少し力が入って、その部分は他より少し字が濃いくなってしまった。 「(三橋!)」 よかった、三橋、打たれたけど投げる気力はなくしてなんかない…けど、チェンジになっても三橋はベンチに戻ってこなくて、一人しゃがみこんでしまった。その後、隆也が自主的に謝りに行ったけど、それでも三橋は戻ってこない。ちょっと声かけてこようかなーって思ったけど、またすぐに攻撃が始まったのでスコアを書かなきゃいけない。田島を敬遠させないためにも、塁を三人で埋める作戦+なるべく球数を投げさせる作戦(叶、息あがってるもんね)栄口は粘りに粘ってフォアボールをとった!ナイス!続く沖がデッドボールで出塁。隆也は真ん中にきたストレートを上手い具合に打った! 「ナイス隆也!」 いよいよやってきた、田島の打席!今までよりも落ちるフォークを投げてきた叶。田島はそれを二回振りながら見た、三球目もそれか、と思っていたけれど、意外にもチェンジアップ!振りに出てしまった田島だったが…打った!って、いうか、あのフォークあたしも打ちたい!田島のヒットは一点を得た。だけど、ツーアウト。その後花井のバントで隆也がかえってきて、逆転!やった! 「お帰り、田島、三橋ー。」 「あのフォーク打ってやろーと思ってたのになぁ。」 「あははー、あたしも打ちたい!」 田島は三橋を連れてベンチに戻ってきた。みんなは口々に三橋に話しかけてる。うん、いい仲間だぁ!ベンチに戻ってきたから、あたしもスコア書きながら三橋に話しかけることにした。 「三橋、頑張ってるよ。」 「え…。」 「だから、大丈夫だよ。」 「あ、ありがとう……。」 ----- 「車、十分くらいだそうです。」 「ありがとう。みんな、荷物持って門まで行くよー!」 試合は4−3で西浦が勝利をおさめた。三橋は織田とたたかってるときも何だか楽しんでいるような気がして、あー三橋強くなったなぁって、ちょっと親心が芽生えた気がした(って、言ったら、隆也に、お前が親心?って鼻で笑われた!)あたしも自分の荷物を持って門へと向かおうとした。そのとき、三橋が誰かに名前を呼ばれた。それは、三星の人たちだった(三橋は走って逃げようとしていたけど、隆也がひっ捕まえて献上した) 「お前の中学時代を、俺が滅茶苦茶にしちまった、ごめん!」 「俺も悪かった!」 「ごめん!」 パタパタと頭を下げていく三星の人たち。それを見てやっぱり慌てる三橋(見てる分には面白い、あ、隆也も驚いてる) 「償うチャンスを…くれないか?…戻って、来いよ。」 若干の沈黙、きっと思っているよりも短いものだと思う。だけど、この空気のせいか、ちょっと長く感じた。三橋は、ゆっくりと口を開いて、否定の言葉を紡いだ。戻らない、と。それに叶は食ってかかるように勢いよく喋ったけど、やはり三橋の気持ちは変わらなかった。 「転校までしちゃって、お前寂しくないのかよ!」 「…寂しく、ないよ…。」 三橋はみんなを見た。ね、だって、一人じゃないもんね。もう三橋は西浦のエースなんだから、みんなの仲間なんだから。あたしは嬉しくなって一人、笑いを堪える。ここで笑ったら隆也にぜったい小突かれるに違いない。それから花井に、空気を読め!って言われるんだ、あーぜったいにそうだ。堪えよう、堪えよう! 「また!試合、しよう…いや、して、下さい…。」 「…絶対…な?」 「じゃあ、あたしそのときフォーク打たせてね!」 耐え切れずに口を挟んでしまった!思わず手をあげて元気よく言ってしまったあたしに、叶は苦い笑いを浮かべた。隆也に予想通り小突かれて、花井にやっぱり、空気を読め!って怒鳴られたけど、それでも叶は頷いてくれたから、そんなこと気にしなくてあたしは笑った(実は叶とは試合後にちょっと話す機会があったのだ!)田島が、俺もー!と手をあげて、その場が一気に賑やかになった。お前のせいだぞ、と隆也がやっぱり苦い顔をしていたけれど、あたし的には、楽しければいいのだ!と思う。平和の一番身近なシンボルは鳩、じゃなくて笑顔、なのだ!(平和関係ないけど) 「簡単に打たせねーよ、!」 「へへへー、簡単に打ち取らせないもん。」 お前いつの間に名前呼ばれるようになったんだよ!と隆也がなぜか怒鳴ってたけど、そんなこと気にしない気にしない。あたし的にはいい球を投げる投手とはみぃんな仲良くなりたいくらいだもん。 「みんなー、車来たわよー!」 「はーい!」 |