8.













合宿も三星との試合も無事終わり、あたしたちは埼玉に戻ってきた。さすがにこの日はあたしも隆也もバテバテで、珍しくキャッチボールもいつものお勉強会も、いつものドタバタもなく、静かに眠ったのでありました。家の中で追いかけっこをする余力はないのであります(練習とかしてないけど、けっこうマネジ業務って忙しいんだもん、それに長い時間バスに乗るのもけっこう疲れるもんだなぁ)あー、もっともっと体力をつけないと。



「おはよー隆也。」

「お、やっと起きたか。」

「…悔しー、今日も隆也のが早起きだった!」

「何の勝負だよ、ソレ。」



GW最後である今日も朝から練習があるわけです。と、いうわけで、はい、今から準備をしましょー。リュックにタオルと一応着替えと水筒…あとはやっぱり、栄養補給のためのお菓子を…と、リュックに入れようとしていたとき、隆也の手がそれを遮った。



「だから、菓子を部活に持ってくなっての。」

「いいじゃん、部活中は食べないもん!」

「問答無用、没収ー。」

「隆也ぁ!」

「つーか何コレ、グミチョコ?」

「おいしーんだからそれ!」

「グミかチョコかハッキリしろっての。」

「そんな可哀想なこと言わないのー!」

「あー、はいはい。」



ドタバタと始まるお決まりの儀式。まだ父さんは寝ているというのにあたしらはそんなことも気にせずに家の中を走り回る。階段は二段飛ばしは当たり前、途中で隆也がわざと隠れたりして、それこそ大騒ぎ。そのうち、予想通りだけど、お母さんの怒鳴り声に近い声がして、あたしらはようやっとして部活に向かうのでありました。い、いってきまーす!



「そういえばさー。」

「あ?」

「県大会さ、今日でベスト8決定なんだってね。」

「…何でそんなこと知ってんだよ。」

「浦和総合に行った友達が言ってた。」



へー、と隆也はあまり興味なさ気に言った。その後、少しの間黙ってしまった。あたし、なんか嫌なこと言ったかな…って思った後、そういえば、と思い出した。隆也はきっと"ベスト8決定"という言葉に反応したんだろう。あたしも黙ってしまうと、隆也は少し俯けていた顔をあげて、いつものようにあたしの頭を小突いた。忘れてしまえばいい、なんてぜったいに言わない思わない。だけど、ちょっとくらい色が変わってもいいんじゃないかなぁ、とは思う。そういえば、あの人はどこの高校に行ったんだったっけ?

























-----



アップして、ロングティーバッティングをした後、県大会の試合を見に行くことになった。それは別によかった。けど、その中身がよくなかったりする。そういえば、朝、が言ってたベスト8決定戦が監督のいうこの試合か…。よりによって武蔵野第一。俺はあまり気乗りしなかったが、一人行きたくありません、なんて子どものように我侭を言うわけにもいかなかった。つか、試合会場までランニングをしながら行くことになったのだが…。



「つか、お前一緒に走る気満々!?」

「当たり前、体力作り体力作り。」

「…それ以上体力つけてどーすんの。」



水谷の言葉にみんなが苦笑する。篠岡と監督は自転車だっつのに、なんでマネジのが部員と同じくして走ってるんだよ(つーか、掛け声なんての方がデカイし、恥ずかしさってもんがねーなこいつ)チラチラとこっちを見ている地域住民の間を通りながら、俺たちは試合会場へと辿り着いた(…ある意味、度胸がつきそうな気がする)平然と笑っているに部員からの好奇の視線が向けられたが、やはり、こいつは気にしていないようだった、さすが。



「隆也?」



俺が何だか気乗りしていないように思える。と、が気が付いたのは試合会場に着いてからだった。はじーっと俺を見て、目が合うと首を傾げた。そういえば、武蔵野第一って聞いたときもは別段何のリアクションもなかった(もしかしなくても、こいつ、忘れてる?)はいつものように小さい子どものように笑ったかと思うと、いきなり俺の腕を引っ張って歩いた。俺は、引っ張るな、とか、歩けるっつの、とか言ったけど、こいつはぜんぜん気にしていない様子で歩いていた(そうだよ、こいつはこういう奴だ!)



「監督ー、ちょっとお手洗いいいですかー?」

「いいわよ、先に行ってるわね。」

「はーい。」



ご機嫌(は高校野球を見るのは好きだ)なの腕からやっとのことで解放された、別に嫌だったわけじゃないが、高校になってまで腕を組んだり、手を繋いだりっつのはちょっと…やっぱり他の目が気になる。まぁ、こいつらは慣れたらしいけど(に)つぅか、武蔵野ってことは、ここにあいつがいるはずだ。俺が投手を嫌悪の目で見るようになったキッカケが!なるべく目立たないように、さわりなく試合を見ていよう(頼むから、静かにしておいてくれ、…と、田島!)特にとあいつも面識がある。はあいつのことを嫌ってるどころか興味をもってるし…!あんの、バッティング馬鹿め!



「援団、浦総しかいないねぇ。」

「うん。」



そりゃそうだろう。武蔵野第一は野球よりも他の部活が目立つ学校だったはずだ。今までは野球で目立ったことはない…そう、今までは。と、いきなり田島が日焼けすると言って脱ぎ始めた!やめろ、目立つな、じっとしてろ!…まぁ、監督に注意されて引っ込んだけど(ナイス監督)つか、普通人前で脱ぐか?監督や篠岡、だっているんだぞ?(はあまり気にしそうにないが…それもどうなんだよ)



「どっちが強い?」

「浦総かな?」

「浦総は甲子園行ってから、ずっと強いよな。」

「武蔵野は野球よりサッカーだもんね。」

「野球部人気なさそうな学校だよねー。」



笑っていた花井たちが急に慌てたような声を出したのが分かった。俺は不思議に思って前を見たが、そのときに見たくもないものが視界に入ってしまい、無理矢理それを視界から消した(つまりは目を逸らした、と)大きな音をたててフェンスが揺らされる。おい、気づくの早すぎねぇか…とりあえず、今はもいねーし、無視を決め込んでおこう。



タカヤ!



んなっ!よりによって名前を呼んできやがった。は戻ってきてない(大方、浦総の友達とでも会って話でもしてるんだろう)都合のいいことに誰も俺が"隆也"だということが頭にないようだ。普段は"阿部"って呼ばれてるし、以外は隆也とは言わない。いきなりのことで驚いて、頭がまわってないんだろう、俺にとっては都合がいい、このまま無視を決め込むか。



「タカヤ、ちょっと来いよ!」



ちっ、うっせーなー!お前試合前だろ、勝手な行動すんな!そういうところ、本当相変わらずだな!そう思いながらも俺はその場を動かず、そっちを見ようともせず、試合が始まるのを待つことに決めている。が。



「あの、阿部くん?」

「はぁ?」

「あの人、呼んでるんじゃ…。」



結局は篠岡に言われて、あいつの存在に気づくはめになってしまった。そのあとバッチリ目が合ってしまい、逃れることはできなかった(うっせーし)



「タカヤ、てめぇ来いっつってんだろー!」

「(チッ)」



渋々あいつの方へと歩いていく。下りていく途中で、花井たちが、そういえばあいつ隆也だっけ、と言っているのが聞こえた。そんなのどうでもいいけど。下まで下りると、そこには間違いなく、あいつが立っていた。武蔵野のユニフォームを着ている。俺としてはどうしてこいつが強くもない武蔵野に行ったのかが不思議だったが…。



「ちわす。」

「お前、どこ入ったんだよ。」

「西浦っす。」

「西浦ぁ?どこそれ。」

「西浦だよ!同じ地区だろ!」



プロテクターやメットをつけた、武蔵野の人がやって来た。俺は今年硬式になったことを言うと、あいつは相変わらず嫌味なことを言ってきた(先輩に従えないんじゃねぇよ、お前に従いたくねぇんだっつの)



「榛名、試合前だぞ!」

「うっせぇなぁ、つか、あいつはどこだ?」

「あいつって誰っすか?」

「あいつだよ、あー名前忘れた、あのチビ!」



の名前忘れてるのかこいつ。そうか、名前を忘れてるし、シニアに来てた頃のと、今のは見た目もけっこう変わってるから、もしかしたら分かんねぇかもしれないな。俺はそう思ってシラをきることにした。榛名とは会わせたくない。こいつの球を打つってきかなかったは、ボールサイズの痣を作るはめになったんだ(だから打つなっつったのに!)



「いないっすよ。」

「はぁ?んなわけねーだろ、あの野球バッティング馬鹿が!」

「(すげー言われようだな)」



つか、俺と同じ高校にいるのは最早決定済みかよ、当たりだけど。確かにあいつはシニアの正規メンバーじゃなかったけど、監督やコーチの許可が出れば少しだけだったが練習に参加していた。バッティング練習なんて目をキラッキラさせてたもんだから、監督たちもそりゃーもーすんなり許可を出してたな(あいつのバッティング見て、他のメンバーは最初は目を丸くしてたけど)



「おい、試合終わるまでいろよ。」

「こっちも団体行動中ですから。」

「なんだーその物言いはぁ!」



相変わらずの短気、いちいちフェンスをたたくのはやめてくれ。だいたい、試合が終わって悠長にしてるわけないだろ。たとえ監督が二試合目を見るって言っても、お前がここにいる間は引っ掴んでどっか隠れててやる。



「榛名!」

「わぁってるよ!」



やべぇ、そろそろが戻ってくるかもしれない。俺は背後を若干気にした。だが、まだあの高い声は聞こえてこない。戻ってきたら田島と一緒になって騒いでそうだし、まだ安心か?



「お前、俺の球捕れるようになるまで半年かかったよな?」

「…。」

「また捕れなくなってんぜ…よく見とけ!」



そう言って榛名はようやく戻っていった。そして、俺がさっきまでいた位置に戻っているとき、聞き慣れた高い声が聞こえた。



「友達と話したら遅れちゃった!」

「…まぁいいから座れば?」

「うわ、隆也が怒らない!」



怒らねーよ、今回はな。あの榛名と直接対面した、となると、またの打ちたい病が始まるに違いない。できるだけが榛名の存在に気づかないでいてくれると…と思っていたけど、あっさりとこいつは榛名の存在に気づいた(チッ、相変わらず目のいい奴!)は、あーっと声をあげた。俺は慌てて口を塞ぐと思わず舌打ちをした。思った通り、は目をキラッキラさせて榛名を見ている。



「榛名サンだぁー!」

「(チッ、早々気づいたか)」

「そういやぁ武蔵野だったっけ、榛名サン!」

「そっか、も榛名さん知ってるんだっけ。」

「うん、あの剛球を狙ってるのでありマス!」

「あはは、怖いもの知らずだなぁ。」



栄口が笑って言ったが、俺にとっては笑い事じゃない。だいたいこいつは無鉄砲すぎるんだ!あの榛名のノーコン速球を打ちたいなんて女としてあり得ねぇ!確かに小さい頃から、この辺で一番高い木に登る、とか、男にまじって相撲をとる、だぁ色々と無鉄砲なことしていたけど(中学の頃は陸上部の男と50m勝負してたな、そういや)俺としては気が気じゃない!あの榛名の球は確かに速い、受けてた俺もそう思う。だけどな、女に怪我負わせるっつーのが信じられねぇ!



「俺は榛名さんと同じ学校行くと思ってたよ。」

「ぜってぇやだよ。」

「何で?榛名さん、すげー投手だったじゃん。」

「あいつは、最低の投手だよ!」



そうだ、あいつは最低の投手だ。俺はあの日のことを忘れるわけがない、忘れるつもりもない。俺や他のメンバーを裏切ったあの試合を。そう、だって裏切ったあいつを、最低の投手と呼ばずしてどう呼ぶ。俺の言葉にが俺を見たけど、それに俺は気づかない振りをして、ただグラウンドを見た。
「頑張って、目指せベスト8!」
あいつのせいで、俺は一番最悪な方法でを裏切った。我侭で傲慢<ごうまん>な、投手のせいで。俺は、パスを渡している榛名を見て、心の中で舌打ちをした。











再会、因縁の人物!
そういえば、隆也は榛名サンにあまりいい思いないんだっけ?











後書

アニメ参照。
次回は漫画参照になります。
ちなみに八話までがアニメ参照です。
へっへっへー、ようやっと出てきました。
武蔵野の榛名サン!
あの口調がたまらない(笑)
今回、阿部くん視点でしたが、途中から。
かなり難しかったです。
おかげで文章が可笑しい、いつもより更に。
とりあえず、大切にされてるんだよぉ、と。
無事伝わったでしょうか(ドキドキ)