番外編.













誰かの笑い声が聞こえる。聞いたことある声だけど、最近は聞いていない。誰の声だっけ、誰の…思い出そうとするけど、よく思い出せない。ぶかぶかの野球帽子をかぶって、ぶかぶかのユニフォームを一丁前に着て、俺にでさえも笑いかけてきた、奴。誰だっけ、誰だっけ…。



「おい、起きろって、遅れるぞ!」



と、そこで世界が変わった気がした。俺は今度は聞き慣れた声にゆっくりと顔をあげる。そこには秋丸が眉を寄せて立っていた。お前違うクラスのくせになんで俺のクラスに堂々と入ってきてんだよ、まだ授業中だろ(授業中に寝てる俺もあーだこーだ言えねぇかもしれないが)そう言ったら、馬鹿、と言われた。



「もう放課後だよ、部活に遅れるぞ榛名!」

「ばっ、何でそれ早く言わねぇんだよ!」



慌てて俺は立ち上がり、鞄を持った。階段を急いで下りる中、考える。夢に出てきたのは誰だったのか(つぅか夢なんて久しぶりに見たな、ホント)ちっこくて、細くて、そのくせ一丁前にバット持ったり、グローブ構えたりなんかして。…ホント、誰だったっけ。そんなこと考えながら走っていたら、秋丸が変な顔してこっちを見ているのに気がついた。



「なに切なそうな顔してるの?」

「はぁ、誰が切なそうな顔してるって!」

「榛名だよ榛名!」



俺は別に切なそうな顔はしてない!ただ、シニアのときにいた、あのちっこい奴が夢に出てきて、そいつがなんて名前だったのかを思い出せないだけだ!他なら思い出せる、えーっと、そう、確かタカヤのキョウダイだったはず(それならちっこいのにも納得できる、あの頃のタカヤはちっせかったからな)



「シニアのときにさ。」

「あ、タカヤの話?」

「違ぇよ、タカヤの…確かキョウダイ。」

「へぇ、それって男、女の子?」

「…女だったような、男だったような…。」

「はぁ?」

「どうだったっけ、女みたいな男だったっけな。」

























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そいつはいつも笑っていた。そりゃ、タカヤが俺のボールで傷を負うときには驚いたり、心配したりしてたけど。だけど、そいつはたいていは笑っていた。俺に対しても、何でだか笑いかけていた。あの頃の俺は…あー、自分でもちょっとアレだったかな、と思わないこともない(が、悪いとも思っちゃいねぇ、仕方ねぇんだ!)自分のキョウダイは俺にケンカをふっかけてくるのに、そいつはなぜかいつも笑いながら話しかけてきていた(一言二言だったけど)



「ッゴホッ、ゲホッ。」



あのときもだ。俺の投げたボールが見事にタカヤの腹に決まったようだった。何度目か、もう両手でも数え切れないくらいだったので、あまり気にせず、俺は頭をかいた。やっぱり、的が小さすぎて仕方がない。大きな怪我を負わせたら問題になるし、俺は少々面倒になっていた。そいつはタカヤに駆け寄ると、心配そうにタカヤを見て、ときおり背中をさすったりしていた。



「隆也、大丈夫?」

「…てめ、大丈夫に見えるか?」

「あーううん、あ、でもこれも試練だよ、頑張ろ!」



試練だと、てめー。こっちは普通に投げてるだけなんだよ!そう腹がたったので、そいつに近付いて、意識的に睨んでみた。今思えば、そういう行動が"大人げない"というのだろう。だが、そいつは俺に怯えるどころか、最初はキョトンと見ていて、それから俺を見上げて笑った。



「凄いですねー、榛名サン。」



そのとき、凄いのはお前だろ、って思った。こういうとき、普通笑えるもんなのか。睨まれて笑える奴なんてそうそういない。俺だったら睨み返してやる!それなのに、こいつは無邪気に笑いやがった。俺は何も言えなくなって、舌打ちをしてその場から放れた。このやろー、なんか、負けたような気分だ。位置に戻って、俺はまた舌打ちをした。そいつは、あのボロボロの試合を終えた後も、俺に平然と笑いかけてきた(タカヤの反抗は相当なもんになっていたが)変な奴。そう、俺の中でのあいつは、変な奴だった。



「榛名サン、投球してくださーい。」



そして、ある日、そいつは俺に投球しろと言ってきた。どうやら、俺の球を打ちたいらしい。その頃にはタカヤもまともに受け取れるようになっていたが、タカヤは猛反対した。そりゃそうだ、打てるどころか怪我しても可笑しくねーもんな(いや、自分のコントロールを言ってるんじゃねぇけど)上手い奴ならまだしも、シニアもほとんど見学でたまに練習に参加してるような奴だ。怪我しても可笑しくねぇ。そう思いながらも、ちょっとした約束もあったし、目をきらきらさせてそいつが言ってくるもんだから、俺は頷いてしまった(そのときは残り五球くらいはあったんだよ!)そして、案の定。



「だ、大丈夫か!」



一球空振り、二球目はファールをとってからの三球目がそいつの肩辺りに当たったらしい。手加減を一応しといたから、折れてるとか、そういうのはないとは思うけど、やっぱりバツは悪かった。タカヤがあまりにも必死なんで、一応様子を見に行くと、そいつは少し不満そうな顔をしていて、そんな顔を見るのは初めてだったので、俺の投球に腹をたてたのかって思った。けど…。



「あー、もうちょっと当たるかと思ったのになぁ。」



なんて言って、やっぱり笑いやがった。馬鹿かお前、痣になってるぞコレ。それでもそいつはやっぱり笑っていて、別にタカヤが睨んでいるのが怖いわけじゃなかったけど、俺は帽子を深くかぶった。ただ、顔が見れなかった。なんだ、お前…ホント、変な奴。(けっきょくは四球目を受けようとするそいつをタカヤが止めてそこで終わりだ)

























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「女の子だったらヤバイじゃん、痣…って。」

「だから性別忘れたっつの。」

「それもどうかと思うけど!」

「だってそいつ、髪短かったし、平然と泥まみれになったり駆け回ったりしてたぜ?」



中学二年の女がそんなことするか?と、言うと秋丸は、確かに、と言葉をにごした。タカヤもだが、あいつはどこの高校に行ったんだろ(確か似てなかったけど双子だっつってたな、高校入ったよな)まぁ、住んでるとこ、そんなに遠くないだろうし、そのうち出会ったりして…って、らしくねぇ。でも、そんときは、あのときと変わらずにあの笑った顔を俺に向けてくれるんだろうか。



「って…やっぱり、俺らしくねぇ!」

「榛名?」











残像、消えません!











後書

耐え切れずに榛名サン登場。
中学校の頃の夢主は男勝りです。
今でもだけど。
髪も短かったし、ずっとズボンだったし。
泥まみれでも砂まみれでも平気!
そしていつも笑顔です。
これがトレードマークなので。
高校に上がる前に彼女は女の子らしくしなさいって、
お母様から言われたのでした。
今では可愛い服を着るのも楽しいようです。
(何てポジティブな彼女!)