
高瀬準太、桐青高校一年生(ちなみに中学からの持ち上がり)エースじゃなくて、控え投手、けど、次の試合からはレギュラー昇格だと思う。そんな俺はなぜか今、試合でもないのに桐青じゃない奴に向かって球を投げなくてはならない状況になっている。しかも相手は、中学生のオンナノコだ(本当に、なんなんだこの状況!) 「準、手加減はいらないけど、死球はぜったいにダメよ!」 横から桐青野球部のマネジで俺の従姉(いっこ上)の声が聞こえてくる(あー、うっせぇ)それに返さなかったけれど、とりあえずは頷いておいた。言われなくてもオンナノコ相手に死球なんてやったときにはバツが悪いっていうか、やるせねぇ…謝るだけじゃ済まないだろうし。だけど、ホントにいいのか?少年野球じゃねーんだから。俺は打席に立っている奴をじっと見た。一丁前に金属バットを構えて、俺をじっと見ている。構えは…綺麗だ、驚くほど自然だし、無駄な力はいっさい入っていない感じがする(その構え、いったい誰に教えてもらったんだよオイ)俺はとりあえず、一球目をストレートにしておいた。 カキィィン 「す、すげぇ…。」 「今のコース、キワドイとこだな。」 周りで見ている野球部員たちが呆然としているのが分かった。俺、一応意地悪しないで本当にストレートで投げたけど、これでも130キロ近いスピードはあったと思うんだけど…。そう思いながら視線を打者に戻した。そいつは自分のコースに満足しているのか、嬉しそうに笑って一度素振りをした(つーか、なんて自然なスイングだ、ホント)逸子(従姉、名字が同じだから名前で呼ぶしかねぇ)は拍手を送り、満足そうに声をあげている。だいたい、こいつのおかげで俺は名も知らないオンナノコに投げているわけだが、逸子が勧めたわけが分かった気がした。 「準、二球目シンカーやってみて。」 「はぁぁ?」 「いいから、やりなさい!」 いくら上手くても中学オンナノコにシンカーかよ!(確かに左打者だけど)そう思って抗議の声をあげたが、逸子は怒鳴るばかりで引こうとはしない。捕手やってくれてる和さんまでもが、それでいこう、と言う始末だ。宣言するだけ、まだいいけど…。そう思いながら打席を見ると、その子は目をキラッキラさせて俺を見ていた。え? 「シンカー!お願いします!」 「(マジかよ)」 仕方ねぇ、と思いながら俺は握りを変えた。シンカーはこの頃、やっとコントロールが正確になってきた球だ(死球の心配はまずない)目の前で期待の眼差しを向けているその子(なんか、子犬みてぇなんだけど)に目で合図を軽くすると、俺は右腕をあげた。 「(わわわ、逃げてった!)」 バットが宙をきった。それでも俺でも感心するような綺麗なスイングだった。その子はバットを地面につけて、一瞬悔しそうに眉をよせたが、すぐに前を向きなおして俺を見た(すごい、真剣な眼差し)どうやら、まだ打つ気らしい。和さんの合図で俺はまた振りかぶって投げる。二度目のシンカーはバットの先にかすめる程度に当たり、チッという音をたてたが、球は和さんの構えるミットに綺麗におさまった。 「準のシンカーってけっこう凄いのね。」 「何今更なことのように言ってんだよ!」 外野で好き勝手言う女に怪訝そうな顔を向けてみる。さぁこれでいいだろ、そういう目を向けて俺はマウンドから降りようとしたけど、その子は打席から動こうとはしなかった。バットを構え、軽く素振りをして、二回目の素振りの途中でバットを止めて、何やら考えているようだ。まさか、とは思うけど、まだやるつもりじゃないだろうな…?その子はバットを再び構えると、もう一球、と声をあげた。そして立ち位置をなぜか下げた。…なんで? 「じゃあ、これがラストだぞ。」 「了解でーす。」 なぜそんなに下がっているのかが分からないが、俺はとりあえず最後の一球を投げることにした。二球目、三球目と変わらないところに向かって、シンカーを投げる(なぜか今の状況を楽しいと思える俺は可笑しいだろうか) キィィン 「なっ!」 「う、った?」 俺も周りも呆然とした。だってその中学生のオンナノコは、俺のシンカーを打ったのだから。それも、下がった位置から踏み込んで少々の勢いをつけ、球に自ら突っ込むような形で打ったんだ。常識から考えればそんな打ち方あり得ない、危な過ぎる。勢いをつけすぎたのか、そのままその子は前倒れになりかけて、その場で膝をついてしまったけれど、紛れもなく、その子は俺のシンカーを打ったんだ! 「あー、やっぱりこんな打ち方じゃベースまで走れない。」 「え、いや、そうだけど…。」 打っただけで凄いと思うのは、自分に対して意識過剰か?でも、そんなに誰でもボカスカ打てるような球じゃあないと、俺だって思う(和さんだって褒めてくれるし)そう、なると…。俺は再び目の前のオンナノコに視線を移した。この子がそうとうな才能を持っていることになる(女子の部なら、ホント注目の的なはず) 「ー、やっぱり凄いわー!」 「わゎ。高瀬先輩!」 「あんた中学の頃も凄かったものねー、お姉さん感動!」 「え、ぅやや、く、苦しいぃぃ。」 逸子にまるで羽交い絞めされているかのようなくらいの勢いで抱きしめられているその子(どうやらというらしい)は苦しげな声をあげている。が、それに逸子自身が気づいていないので、見るに見かねて俺がとかいう子の腕を引っ張って救出してやった(つーか、殺す気かお前は)ぷは、という声がして、そうとう苦しかったのだろう涙目のとかいう子は俺に気がつくと、目を潤ましたまま、にっこり、と笑った。 「えーっと。」 「準よ、高瀬準太。」 「(高瀬先輩が二人!)えーっと準サン?」 「別にいーけど。」 「準サン、面白かったです、有難う御座いましたー!」 まるで生まれたての子どものような純な目を俺に向けて、笑うとかいう子が少し眩しく感じて、俺は少しだけ目を逸らした(別に俺が汚れてるとか、そういうのじゃないけど)でも、なぜか顔がまた見たくなって、ゆっくりととかいう子に視線を戻す。再び目が合ったことにキョトンとしていたけど、突然頭の上に手があてられたことに驚いたようだった(俺が頭の上に手を置いた)そのまま俺はぐっしゃぐしゃとまるで犬を撫でるかのように頭を撫でた。きゃー、という声があがったが、その反応がまるでホントに子どものようで(一生懸命に俺の手をとめようとしているけど、けっきょく何もできていない)俺は可笑しくなって吹き出してしまった。 「ちょっと、あんた女の子の髪乱して何笑ってるのよ!」 「…っ、くく…ははっ。」 笑いを堪えながら俺はまたとかいう子に視線を合わせた。ちょっと困っているような顔をしていたが、目が合うと、それはまるで反応(反射)であるかのように、ヘラリ、と笑った。それがまた何でだか面白く感じてしまい、ますます俺のツボに入る。再び頭を撫で回すと、きゃー、という声が上がった。 「、だっけ?」 「はい。」 「桐青くんの?」 今日は中学生の学校見学の日、だった。逸子に呼ばれて見学に来たらしい(どうやら中学校の頃先輩と後輩だったようだ)は友達と一緒に学校見学に来ていたらしい。学校見学、ということで俺たちは授業が午前中で終わり、午後から部活をする部と午後からも部活をしない部に分かれていた。そんなときに自由に見学をしていたらしいは野球部に顔を出したらしい。逸子があまりにも凄い凄いというので、俺が投げることになったわけだが、本当に凄い奴だった。 「分かりません。」 「え、来てくれないの!」 「んー、隆也と一緒のところに行くつもりなんで。」 たかや?どう聞いたって男の名前に俺は内心反応してしまった。友達なのか彼氏なのか、なんで自分がそんなこと瞬時に考えているのか分からないが、どこか気になった。 「隆也くんかー、桐青来ないかなー。」 「どうでしょーね、まだ決めてる途中みたいだし。」 「隆也くんほどの捕手ならカモン、なんだけどね。」 「一応聞いてみまーす。」 「うん、よろしくね!」 どうやら、たかやっていう奴は捕手らしい。なんだか来て欲しいような来て欲しくないような…(そんなこと、なんで自分が考えているのか分からないけど、とりあえず、にちょっとばかし興味がわいたからだということにしておこう) 「な、そのた…「ー用事済んだー?」 俺の言葉を遮り、誰かがの名前を呼んだ。どうやらそれはの友達だったらしく、返事をすると、こっちを向きなおし、はペコリと頭を下げた。 「お邪魔しすぎてごめんなさい、有難う御座いました!」 「こっちこそいいバッティング見せてもらったし。」 「準サンも本当、有難う御座いました!」 「…別に、何でもないけど。」 「じゃあ、高瀬先輩、またメール下さいねー!」 「うん、もちょうだいね、あと学校の件も教えてね!」 「はーい!」 元気よく返事をすると、は背を向けて走って行ってしまった。俺はその小さな背中が、本当に小さくなって見えなくなるまで、無意識なんだろうけど見ていた。ハッとしたように周囲を見ると、逸子や和さんが何か意味ありげな表情を浮かべてこっちを見ている。なんだよ、いったいなんだっていうんだ! 「ふぅぅん。」 「準太にも、春が来たかぁ。」 「そうねぇ、季節は秋でも心は春ねぇ。」 「うんうん、俺もちょっと安心したぞ。」 「なっ、何のこと言ってるんスか!」 その生暖かいような視線がとても嫌なんだけど!(逸子に対しては殴ってやりたいような衝動に駆られる、いや、殴らないけど)その言葉の意味や視線の意味が分からないから、もっと嫌だ!練習再開しましょうよ!いくら監督がいないっつっても、こんなんじゃ戻ってきたとき怒られますよ!俺はそう言ってその視線から逃れてマウンドに戻った。ボールを握ると、目の前にまだがバットを構えて立っているような気がして、俺は汗を袖で拭って、ちょっとだけ頭を振った。…結局、たかや、っていうのはの何だったのだろうか。 「知りたい?」 「べっ、別に知りたくなんてねぇよ!」 「じゃあ教えない。」 「(このアマッ!)」 「(ってか、メールアドレスくらい聞けばよかったのに)」 |